隣の圏外さん


「はー」

 大きなため息が聞こえたので見上げると、梓はおでこに手を当てていた。


 その手が離れると、梓と目が合う。


「そういうことすると、どうなるかわかってる?」

「え」

 梓は私の頬に手を当てた。

 そして梓の端正な顔が近づく。


 街灯に照らされてできた、私たちの影。

 その頭の部分が静かに重なった。



 唇に柔らかい感触がある。

 それがゆっくりと離れると、また梓と目が合った。


 捕食者を表すような瞳に、溺れそうになる。


 そしてまだ足りないとでも言うように、もう一度顔が近づいてきた。


「わっ、ちょっと待って」


 心臓が壊れてしまいそうなのだ。

 だから制止の声をあげたのだけれど、梓は止まらない。


「もう我慢しないから」


 その宣言通り、何度もキスの雨が降ってくる。


「ふ。結衣子、可愛い」

 合間に梓がそう呟いた。


 こんなタイミングで名前を呼ぶなんて、ずるい。


 結局私はされるがまま、甘美な感触に身を委ねた。


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