隣の圏外さん
「あ、やべ。教科書忘れたかも」
授業開始を告げるチャイムが鳴り、数学の先生が入ってきたと同時に隣から声が聞こえてきた。
梓がカバンの中をゴソゴソと探っている。
この間のことが思い出される。
前は壁を作ってしまったが、今日こそは素直にちゃんと見せてあげたい。そう思い声をかけようとした瞬間、「永瀬」と私の名前を呼びながら梓が顔を上げた。
「見せて」
「うん。もちろん」
被せてそう言った私を見て梓は白い歯を見せた。
少し乗り気になりすぎたように思うけれども、嫌々見せるわけではないということは伝わったような気がする。
「サンキュ」
梓が机を寄せてくる。私も自分の机を少しだけ彼の方へ動かした。
思ったより近い。緊張する。
でも自分だけそわそわしているのも恥ずかしいので、意識しているのが表に出ないように平静を心がけた。