隣の圏外さん
授業中、ふと梓のノートを見てみると、意外と綺麗にまとめられていて驚く。失礼な話だけれど、もっとぐちゃぐちゃかと思っていた。
感心していると自分たちが練習問題を解かされる番になったので、慌てて取りかかる。
とりあえず手を動かすが、途中で躓いてしまった。あれ、どうやるんだったっけ。
先ほどまでのノートを見返しながら先生の説明を思い出し、再び取りかかる。今度は答えにたどり着けた。
ひと息ついて横目で梓を見ると、もう4問目を解いている。解くスピードが速い。負けていられないと思い、私も急いで2問目に移った。
目の前の問題を解くことに集中し、やっとのことで全ての問題を解き終えたので隣を見てみると、梓と目が合った。
「お疲れ」
頬杖をついた梓が微笑んだ。
やっぱり追いつけなかった。そういえば中学生のときに数学が得意だって言っていたな、と思い出す。
「お疲れ、さま」
少し悔しく思いながらもそう返した。
それより、解いているところを見られていたのかな。恥ずかしい。
そう思うとその後の授業には集中できなかった。先生の話が全然頭に入ってこない。
変に左側を意識してしまう。じんわりと汗ばんできてしまっているような気もする。早くこの授業が終わってほしい。
そう願い続けているうちに、終了を告げるチャイムが鳴った。鯱張っていた身体が一気に緩んだ。
「ありがとな」
授業が終わり、机が離れていってしまう。
「いえ。どういたしまして」
さっきまで早く終わってほしいと思っていたわりに、今はなんだかそれを惜しく感じている自分がいることには気づかないふりをした。