隣の圏外さん
「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
一つ一つ、練習をこなしていく。
あとは早口言葉か。
「生麦生米生卵っ!」
言えた……のかな。なんだか上手く言えてないような気もする。
「生麦生米生卵」
うーん。まあいいか。
「隣の客はよくきゃき食う客だ」
噛んだ……。もう一回。
「隣の客はよくきゃききゅ」
……。やり直そう。
「隣のきゃきゅは」
「ぶはっ」
声がした方をバッと見ると、常盤君がこちらを見ながら、口元を腕で隠して笑っている。
「集中してないじゃん!!」
失敗を笑われたのだと気づき、抗議する。
「いや、だってさ」
常盤君が机に肘をついたところで、扉が開いた。
「お疲れー」
田中先輩が入ってくる。
「こんにちは」
軽くお辞儀をしながら挨拶した。
「お、ちゃんとメニューをこなしてるんだね」
私が手に持っているプリントを見て、田中先輩は微笑んだ。
「朗読する部分は決まった?」
「いえ。まだです。読み易そうなところを探してはいるんですけど」
「いくつかピックアップして、実際に時間を計りながら読んでみたらいいと思う。内容も審査対象だから、そこも考えつつね。今ちょっとやってみよっか」
「はい! お願いします」
とても頼りになる。
ふと常盤君の居る方を見ると、まだこちらを観察していた。
「何」
ジト目で威嚇すると「いや、別に」と言ってまた本を読み始めた。
「やっぱり参加したくなった?」
田中先輩が常盤君に声をかける。
「いえ。参加しません」
何なんだ、一体。
その後はまた田中先輩からいろいろと丁寧に指導を受けた。