隣の圏外さん
「なんか暗くない?」
放送室に入るなり、常盤君に声をかけられた。
相変わらず早い。どうしてそんなに早いのだろう。
「常盤君って競歩部だったっけ」
「は?」
「あ、いやごめん冗談です」
「で、その辛気臭い顔はなに」
落ち込んでいるように見えるってことだろうか。そこまで言われるほど凹んでもいなければ、顔にも出ていないはずだけど。
「まあ、仲良い子と席離れたし……」
「ふーん。てっきり寺元の方と離れて悲しんでるのかと思った」
「は!?」
思いがけず大きな声が出てしまう。
「俺、永瀬さんの斜め後ろらへんの席だからさ、寺元のこと見てるなーって観察してた」
「友達の席が梓の前なの」
ため息が出る。
勘違いされるわけにはいかない。もう中学のときみたいに、周りの人間が誤想した状況は避けたいのだ。無駄に傷つきたくない。
「だから、見ていたのは友達の方だよ」
「へー」
誤解はしっかり解いておかないと、と意気込んだものの、常盤君の気のない返事に拍子抜けした。
自分から聞いたわりに、さして興味がなさそうだ。
それ以上踏み込んでくる様子もなかったので、私はいつものルーティーンをこなすことにした。