隣の圏外さん
いよいよ大会当日になった。
待ち合わせ場所である会場の最寄り駅まで電車で向かう。
落ち着かない気分でいると、スマホにメッセージが届いた。
梓からだ。珍しい。
開いてみると「今日大会なんだってな、応援してる」と書かれていた。
もう目的の駅に着く頃だ。なぜ知っているのだろうと思いつつ、簡単に「ありがとう」とだけ打って送る。
そして電車を降り、改札の先を見据えると、よく見知った顔を視界に捉えた。
まさか、常盤君……?
慌てて改札を通り抜けてその人に近づく。
やっぱり常盤君だった。どういう風の吹き回しだろうか。
そのすぐ近くには顧問の先生や先輩方の姿もある。
「遅くなってすみません!」
「大丈夫よー、まだ集合時間の5分前だし」
田中先輩が気にしないで、と手を左右に振った。
「なんでいるの?」
常盤君に尋ねる。
案内のプリントは全ての部員に配られているから、来ていてもおかしくはないのだけれども。
「まぁ、練習頑張ってたし? どうなるか見届けよう、みたいな?」
「本当か? 倫太郎」
部長が薄ら笑いを浮かべている。
「……どういうのか1回見ておけば、出た風に喋れるし」
「なんて奴なんだ、倫太郎」
「最低だな、倫太郎!」
部長が嘆いた後、すかさず田中先輩が被せた。すっかりいじられキャラになっている。
「全員揃ったし、行きましょうか」
顧問の先生の言葉を合図に、会場に向かって歩き出した。
1歩ずつ会場へ近づくにつれて緊張が増幅していく。
でも横で歩いている常盤君を見ると、この人も放送部なのになんて呑気なんだろう、と馬鹿らしく思えてくる。いい弛緩剤かもしれない。
「というか、ここまで来るくらいなら出ればいいのに」
常盤君に話しかける。
「いや、見るだけなのと出るのは違うでしょ。準備とか練習とかあるし」
そこはやはり頑なである。