隣の圏外さん


 いざ本番が始まると、どうにも落ち着いていられなくなった。


 自分の順番が近づいている。

 胸に手を当てずとも、心臓が激しく鼓動しているのがわかる。


 ひとつ前の審査が終わったときに、緊張はピークに達した。


 マイクの位置を調整する間もあまりに静かで居心地が悪かった。

 ここにいる皆の視線が自分に集中しているのを感じる。


 何も考えられなくなる。

 自分にできることは、ただひたすらに目の前の紙の文字を追うことだけだった。

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