隣の圏外さん
「好きなのどうぞ」
そう言って先生は、私たちに向けてレジ袋の口を広げた。
ジュースがいっぱい詰められている。
「わー、ありがとうございます! ほらほら、永瀬さんも好きなの選ぼう」
田中先輩が真っ先に飛びついて、私に手招きした。
「私これ」
田中先輩はそう言ってミルクティーを取って行った。
「部長。先に選んでください」
「そういうの気にしなくていいのに」
そう言いながら部長はブラックコーヒーの缶を手に取る。渋い。それって先生が自分用に買ったやつじゃないのかな。
「俺、これにします」
「いやお前は出てないんだから遠慮しろよ」
常盤君が黄色い炭酸飲料を取ると、部長が突っ込んだ。
「まぁまぁ。一緒にコンビニで選んでくれたの常盤君だから、許してあげて。それにさっきまでずっと持っててくれたのよ。意外と紳士的なのね」
顧問の先生は部長を宥めつつ微笑んでいる。
まだ4本残っている。好き嫌いがあるのを見越して多めに買ってくださったようだ。
「ありがとうございます」
そう言って透明なサイダーをありがたく頂戴した。
ご褒美のサイダーの味は、いつもより美味しく感じる。
喉で泡がパチパチと元気よく弾けるのを、今の私の爽快感を表しているみたいだと思った。
帰り道、思い立ってスマホを確認してみる。
やっぱり何もきていないか。
ふと、梓が背中を押してくれたときのことを思い出す。
やってみてよかったな。
不得手だと思っていた人前で、上手くはなかったにしろ、大きな失敗もなくやり遂げることができた。やれる人間だったんだと気づけた。
しみじみとその現実を嚙みしめながら、スマホを握りしめた。