隣の圏外さん
大会が終わって気が緩んではいるものの、活動日には部活へ顔を出す。
掃除当番の仕事を終え、放送室に入って中を確認する。私以外の部員は全員先に来ていたようだ。
先輩に挨拶をして、ルーティーンをこなすと、暇になってしまった。
部長だけは、部長らしくずっと何かを朗読している。
私も見倣って何か朗読しようかな。そう思い本棚に入っている文庫本を漁る。
なんとなく惹かれるタイトルのものを手に取って大会のときのように読み上げ始めたが、恋愛小説だったようだ。
声に出して読むのが段々と恥ずかしくなってきた。
途中で朗読するのを止め、でも続きが気になったので黙読に切り替える。
なかなかこのふたり、くっつかないな。早くくっついちゃえ。
そう念じながら読み耽っていると、ふいに肩をトンと叩かれた。
「先輩たち、もう帰ったけど」
「えっ」
驚いて辺りを見回すと、私と常盤君の2人だけになっていた。
「チャイム鳴った?」
「いや、鳴ってない。でも時間は過ぎてるから、不具合かもって」
「そっか。あ、挨拶し損ねちゃった」
「うちの先輩は誰もそんなの気にしてないんじゃない。俺がしといたし」
常盤君はそう言いながら私が読んでいた本を取りあげて、裏表紙に印刷されたあらすじを見た。
「へー、恋愛小説」
パラパラと中のページを捲っている。さっきまで夢中になっていたのが恋愛小説だと知られてなんとなく小恥ずかしい。
常盤君ならわかるのだろうか、梓の気持ちも。同じ男子だし。