隣の圏外さん


「恋愛対象の人と、そうじゃない人の違いってなに?」

「え、なに急に」

「その小説を読んでたら考えさせられちゃって」


 本当のことは言えないので、咄嗟に取り繕う。

 その小説には、そういったことに言及している部分は無かったけど。


「自分はどうなの」

「ハッキリとした基準がなくてわからないから、男子はどうなのかなって思って」


 常盤君は少し考える素振りを見せた。

「やっぱ顔じゃない?」


 顔……。顔かあ。顔……。


「いやなんでそこで永瀬さんがしょげるの。誰かに何か言われた?」

「そうじゃないけど、顔か、って思って」

「永瀬さん、別に不細工じゃないんだから気にしなくていいじゃん」


 慰めてくれるのはありがたいが、もし梓も同じ考えなら、要は梓の求める基準を下回ったってことだ。


「常盤君が許容範囲内と思ってくれたとしても、アウトって思う人にはどうしようもないってことでしょ」

「何を勘違いしたのか知らないけど、印象を良くすることはできるでしょ。清潔感があればの多くの人の最低ラインはクリアできると思うし、その他にもいろいろとやりようはあるじゃん」


 確かに、やれることが何もないってわけじゃないか。


「たまにはいいこと言ってくれるんだね、ありがとう!」

「たまにってなに」


 そうとわかれば、やることは決まった。

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