隣の圏外さん


 結局、移動教室のときに一緒に歩いていた凛ちゃんが「髪切った?」って気づいてくれたけど、それきりだったので、近くにいた常盤君にも聞いてみることにした。


「昨日からちょっと変わったと思う?」

「えぇ……それ、わからなかったら不機嫌になるやつじゃん」


 常盤君は面倒くさそうに答えた。なんだか尋問しているみたいで申し訳ない。


「ならないよ」

「俺の姉はなるんだよ」

 そう言いつつも、常盤君は顎に手を当てて考えてくれている様子だ。


「お姉ちゃんいるんだ」

「いる。しかも服装とかいろいろ、結構ダメ出ししてくる」


 待っている間、常盤君になら見つめられても緊張しないなぁ、とぼんやり思う。


「うーん、髪切った?」

「お、正解」

「まぁその可能性が1番高いかなって」


 当てずっぽうか……。


「何の話」

 急に背中側から声がしたと同時に、頭上に重さを感じた。


 上半身をよじって確認すると梓だった。顎を置かれていたようだ。


「どこか変わったでしょうかってクイズされてた」

 常盤君が答える。


「ふーん」

 梓がこちらをじっと見つめた。やはり気もそぞろになってしまう。


「可愛くなった?」

 梓のその言葉を聞いた瞬間、顔に熱が集中していくのがわかった。


「うわ、チャラっ」

 近くにいた女の子が聞いていたようで、梓に野次を飛ばす。


 なんて返したらいいのだろう。わからない。顔から火が出そうだ。


「ほらー、永瀬さん困ってるじゃん」

 華やかな女の子も寄ってくる。


「あ、ありがと」

 なんだなんだと人が集まってきそうな気配があったため、それだけを言い残して逃げるように教室を出た。

 行く当てもなく、目についたお手洗いに駆け込む。


 鏡に映った自分を見ると、りんごのように顔が真っ赤になっていた。

 多少色のつくリップを塗っていたのに、顔が紅潮しているせいでそのコントラストが弱まっている。


 敵わないなあ。

 心の中でそう呟きながら、静かに自分の唇を見つめ、もう一度リップを塗り直した。

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