隣の圏外さん


 こちらから話しかけることがなければ、向こうから話しかけてくることもなく、初日は過ぎていった。


 そしてホームルームを終えて解散となると、前の席の子が急に振り返った。

「ねえ、名前は? 何て言うの?」

 ショートカットの綺麗な子だ。

「あ……」


 一瞬戸惑った。

 横に帰り支度をしている寺元梓がいるからだ。

 でも、意識したって仕方がないと思い直す。


「結衣子、だよ」

「結衣子ちゃんね! 私は凛花。凛って呼んで」

「凛ちゃん。……あの、私も結衣子でいいよ」

「オッケー、よろしく。あ、さっそくだけど連絡先交換しようよ」

 初日から声をかけてもらえた事実にホッとする。


 交換を終えて横を見ると、寺元梓はもう帰った後だった。

< 4 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop