隣の圏外さん


 遅めの昼食を食べた後は少し移動して文系学部が集まっているキャンパスへ行ってみる。

 こちらは予約なしで模擬講義が行われていたので、少し覗いて帰った。


 帰りの電車は乗換駅まで一緒だった。


 そこから先は別の方面なので別れようとしたところ、梓が急に私の手首を掴んだ。

「来週の花火大会の日、予定ある?」

 梓が下を向いたまま言う。


「え?」

 どうしてそんなことを訊くのだろう。


「誰かと行くのかと思って。花火大会」

 目が合う。

 その瞳は揺らめいていた。


 近くの蝉の鳴き声がうるさい。


「特に予定はないけど」

 まさか、と思ってしまう。


「じゃー俺と行こうよ」

「あ、はい」

 反射的に頷いて返事をしたが、思考が追いつかない。

「じゃ、また」

 そう言って梓は駆けていく。


 私は蝉が鳴き止むまで、しばらくその背中を見つめていた。

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