隣の圏外さん
花火を見る場所となっている公園に着くと、人が密集していてさっきよりも蒸し暑く感じる。
あと何分くらいで始まるのだろうと思い、スマホを見ると、圏外になっていた。
圏外。
その2文字にチクリと胸が痛んでしまう。まるで神様が警告してくれているみたいだ。
いけない。
せっかくの花火大会なんだから、感傷的になっていないで楽しまないと。
気持ちを切り替えて、今か今かと待っていると、突如花火が打ち上がった。
ワッと歓声があがる。
興奮して指笛を鳴らす人もいる。
「綺麗」
感動して思わずため息が漏れた。
初めのうちは1発ずつ打ち上がっていたが、段々と同時に打ち上がる数が増えたり、連続したりと盛り上がっていく。
その盛り上がりがピークに達したとき、空までも明るくなって、私たちを照らす。
梓を見ると、すっかり花火に心を奪われた様子で、一心に見つめているその横顔がとても綺麗だった。
そしてまた初めの頃のように1発ずつの打ち上げに戻ると、梓がこちらを見たので目が合った。
切なげに揺れる黒に呑まれそうだ。
「永瀬、俺――」
「えっ! 梓? と、永瀬さん?」
梓が口を開いた瞬間、その言葉は別の声によって遮られてしまった。
声がした方を見ると、同じクラスの女の子が立っていた。
深い紺色の浴衣が大人っぽいその子にとてもよく似合っていて雅やかだ。
男の人と手を繋いでいる。年上だろうか、その男の人は大人しか身につけなさそうな時計を腕に巻いていた。
「やっぱりそうじゃん」
ぼーっと眺めていると、その子が近くまで寄ってくる。
「梓が女の子と2人でいるのも驚いたけど、永瀬さんといるのが倫太郎じゃないのもビックリ」
彼女は楽しそうにそう告げた後、手を繋いでる男性を指した。
「ちなみにこっちは私の彼氏。えへへ。邪魔してごめんね!」
そしてそのまま嵐のように過ぎ去っていった。