隣の圏外さん
終了のアナウンスが聞こえるやいなや、一目散に走り出す人たちが目に入る。
私たちは、混雑を避けるために1つ隣の駅まで歩くことにした。
「本当に送らなくて大丈夫?」
梓が私に尋ねてくる。
「うん。家の近くの駅まで親が迎えに来てくれるらしいから」
ひと駅分歩いたおかげで来た電車に乗ることはできたが、次の駅で人が一気に押し寄せ、車内がぎゅうぎゅう詰めになった。
梓とくっつくことになってしまって、息が詰まる。
お互いに何も話さない。
帰りの電車に揺られていると、もう終わってしまったんだな、ということを実感させられる。
この手が離れたら、何もなかったみたいに元の状態に戻ってしまうのかな。
現実感のない1日だったし、夢だったという方がしっくりくるから、きっとそうなのだろう。
「じゃあ」
乗換駅に降り立つと、どちらからともなく手が離れる。
「うん。また」
そう言ったまま梓が動かないので不思議に思っていると、遠くの方で音楽が鳴り始めた。
電車がもうすぐ到着する合図の音楽だ。
「永瀬の方、電車来そうじゃない?」
「あ、うん。それじゃあまたね」
私は後ろ髪を引かれる思いで、手を振ってその場を後にした。