隣の圏外さん

　書店に到着し、無事に購入できたのでさあ帰ろう、と振り向いたところで見慣れた姿が視界に飛び込んでくる。

　常盤君だ。


「常盤君」

　声をかけると、平積みにされている本を眺めていた常盤君がこちらを見た。

「わ、永瀬さん。久しぶり」

「久しぶり」


　常盤君は参考書を抱えていた。

　自分が参考書を見てくると言って出てきたことを思い出し、後ろめたい気持ちになってしまう。


「常盤君、偉いね」

　普段のイメージからはあまり想像できなかったけど、頑張っているんだな。


「ああ、これのこと？　まぁ、メインはこっちだけど」

　常盤君は手前に抱えている参考書を一瞥した後、その裏からヒョイと漫画を引っ張り出して見せた。


「ネットで在庫検索したら近場で置いてある店舗がここくらいでさ」

「そうなんだ」

「じゃ、会計してくる」

「ここに置いてある本は買わなくていいの？」

「うん。なんとなく見ていただけだから」


　そう言って常盤君はレジへ向かった。