隣の圏外さん


「三つ編みの少女がベテランの先生の手を引いていますね。ここだけ穏やかでほっこりとした、童話の中であるかのような空気が流れています。大丈夫ですか? その先生、赤ずきんのおばあさんの振りをした狼じゃないですか?」

 その声に合わせて、手を引かれていた先生が急に手を上げてガオーと狼のようなポーズを示す。

 先生もノリが良い。


 この声は部長の声だ。

 声のトーンがいつもと同じだけれど、部長もノリノリで楽しまれている様子である。


「日焼け止めを持っている人ー!」

「はいはい!」

 隣に座っていた凛ちゃんが、小物入れから日焼け止めを取り出して立ち上がり、走っていった。


 借り人競争でいろんな人が連れていかれる。

 それらをぼーっと眺めていると、不意に名前を呼ばれた。


「永瀬さん!」

 声がした方に目を向けると、常盤君がすぐ近くまで来ていた。

「わ、私?」

 慌てて立ち上がり、常盤君とゴールを目指して走る。

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