隣の圏外さん


「なんて書いてあったの?」

 見せてもらえなかったので仕方なく、本人に直接聞く。


「……異性って書いてあった」

 梓はそっぽを向きながら首の裏を掻いた。


 なんだ、と少々ガッカリしてしまうものの、それで最初に思い出してくれたのが私なのかと思ったら、上へ上へと立ちのぼる煙のように私の気分も舞い上がっていく。


「名前を呼ばれたから、もっと限定的なものかと思った」

 私は浮き立つ心を隠すようにそう言った。


「……さっき、倫太郎とゴールするのを見てたから。1番ゴールに近いところにいるし、最短かと思って」

 シューと音を立てて風船が萎んでいくかのように、先程までの高揚感が失われていく。


「さすが。1位だったもんね」

 梓には笑ってみせた。


 都合のいいように解釈してしまった自分が恥ずかしい。梓はただ合理的な方法を選んだだけなのに。

< 83 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop