隣の圏外さん
「なんて書いてあったの?」
見せてもらえなかったので仕方なく、本人に直接聞く。
「……異性って書いてあった」
梓はそっぽを向きながら首の裏を掻いた。
なんだ、と少々ガッカリしてしまうものの、それで最初に思い出してくれたのが私なのかと思ったら、上へ上へと立ちのぼる煙のように私の気分も舞い上がっていく。
「名前を呼ばれたから、もっと限定的なものかと思った」
私は浮き立つ心を隠すようにそう言った。
「……さっき、倫太郎とゴールするのを見てたから。1番ゴールに近いところにいるし、最短かと思って」
シューと音を立てて風船が萎んでいくかのように、先程までの高揚感が失われていく。
「さすが。1位だったもんね」
梓には笑ってみせた。
都合のいいように解釈してしまった自分が恥ずかしい。梓はただ合理的な方法を選んだだけなのに。