隣の圏外さん
「そういえば、さ」
梓がじっと見つめてくる。
「倫太郎のは、何て書いてあった?」
――あ、こんな目を前にも見たことがある。
直感的にそう思った。
梓の瞳がゆらゆらと揺れている。
「同じ部活の人だってさ」
私がそう言うと、梓は横を向いてふーっと息を吐いた。
そして、再びこちらに視線を戻す。
「並ぶか」
梓はさっきまで私が並んでいた列の最後尾に足を向けた。
田中先輩のアナウンスを真に受けたのだろうか。いや、梓がそんなことを気にする理由もないか。
「お疲れ」
体育座りをしていた常盤君が、私たちを見上げた。
私たちもそれぞれ「お疲れ」と返して地面に座る。
「一国をも揺るがす色男」
常盤君がボソッと発したそのひと言に、つい笑ってしまう。
「うるせー」
梓が常盤君をひじで小突いた。
その後の走者を見守っている間、常盤君にお題の内容を尋ねられることはなかった。