隣の圏外さん
「あ! 梓ー」
気になって声がした方を見てみると、綺麗な人が教室を出ようとしていた梓に駆け寄っていった。
あの人は確か、入学当初にも教室に来ていた先輩だ。
美人さんで記憶に残っている。
梓と2人で写真を撮るようだ。
それを、なんだか面白くないと感じている自分がいる。
……嫌、なのかな。私は。
内心焦っている? それとも、単に羨ましいだけ?
わからない。
ただわかるのは、心に靄がかかっていくような、あるいは何かよくないものが巣食っていくような、そんな感覚があるということだけだ。
ずっとここで立ち止まって見ているわけにもいかない。
気づかれないように、そっと出口へ足を向けた。
「ナシナシ。圏外でしょ」
いつかの言葉が頭の中で響く。
わかっている。わかっているってば。
時折、梓から見た私の印象が、変わってきているのではないかと期待しそうになることもある。
だけど、ちゃんと忘れていない。
忘れてしまえば、きっと痛い目を見るから。
あの先輩と私じゃ、月とスッポンだ。
どちらが選ばれる側か、なんてことは考えずとも明白である。
じゃあなんで。
先輩がいるのに、なんでデートなんて言ったんだろう。
未練がましく、そんなことを思ってしまう。
もしあのことが無かったら、私がモヤモヤすることもなかったのだろうか。