隣の圏外さん
「おいイ゛イ゛イィィ! 緑組の奴らアア゛アア゛アァァ! 弥生さんが心配そうに見つめているぞオオ゛オォォ! 弥生さんのためにもっと全力で引げエ゛エ゛エェェ」
急にデスボイスが聞こえてきて仰天した。
田中先輩だ。
運動場では、綱引きが行われている。
弥生さんとは、おそらく学校のマドンナである国語の先生のことであろう。
首元に緑色のハチマキを巻いて、テントの下で立っていらっしゃるのが見える。
「田中先輩ってデスボイスも出せるんだね」
喉に負担はかからないのだろうか。
「あっはは」
常盤君は腹を抱えて笑っている。
「こういうのを撮影して新歓のときに流したら、入部する人も増えそうだよね。そうしたら大会に出る人が増えて、皆で創作系の部門にも挑戦できそうなのに」
「これを見て入った人が真面目に大会に出るかは怪しくない? 明るい人は増えそうだけど、他の部と兼部しそう」
想像してみると、常盤君の言う通りな気がしてくる。
それに、私のような人間がもしこの光景を先に見ていたら、自分には無理だと尻込みして入部していなかったかもしれないな、と思った。