隣の圏外さん
本番は、その後すぐにやってきた。
「さっきあれだけ練習したから大丈夫だろ」
梓がそう言いながら、また自分のハチマキを足首に巻いてくれる。
「ありがとう」
ともすれば砂で汚れかねないのに、率先して自分のを使ってくれる。
こういうところなんだろうな、彼がモテるのは。
私がお礼を言うと、梓は優しく微笑んで私の頭にポンと手を置いた。
それから練習のときのように肩に腕を回してくる。
今の、なに。
彼の微笑みが脳裏に焼き付く。
甘い仕草に、心臓が大きく鳴ったような気がした。
くらっとしそうになるのに耐えて、私も梓の腰に腕を回す。
その瞬間、梓の身体が少し跳ねた。
驚かせてしまったのだろうか。