隣の圏外さん


 本番は、その後すぐにやってきた。


「さっきあれだけ練習したから大丈夫だろ」

 梓がそう言いながら、また自分のハチマキを足首に巻いてくれる。


「ありがとう」

 ともすれば砂で汚れかねないのに、率先して自分のを使ってくれる。

 こういうところなんだろうな、彼がモテるのは。


 私がお礼を言うと、梓は優しく微笑んで私の頭にポンと手を置いた。

 それから練習のときのように肩に腕を回してくる。


 今の、なに。


 彼の微笑みが脳裏に焼き付く。

 甘い仕草に、心臓が大きく鳴ったような気がした。


 くらっとしそうになるのに耐えて、私も梓の腰に腕を回す。


 その瞬間、梓の身体が少し跳ねた。

 驚かせてしまったのだろうか。

< 95 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop