セカンド・ファーストラブ
* * *

頭の中に過ぎった高校時代の思い出に思わず目を細める。

…今思い返してみても単純すぎて自分のことながら恥ずかしくて杏寿には言えそうもない。


「ねぇ、聞こえてるー?」


ドライヤーの音で聞こえてないと思ったのか、杏寿が少し声を張る。その澄んだ声は高校のときから変わらない。


「はいはい聞こえてますー」

「もう、じゃあ無視しないでよ。なんで美容師になったの?」


すねたような声を出しながらも、俺に身をゆだねたままの杏寿がどうしようもなく好きだって思うよ。きっとすれちがってなくてもずっと杏寿のこと好きでいられる自信はあるけど、でもやっぱりすれ違ったぶんだけもっと愛おしく、一緒にいられる時間が幸せに感じられるんだと思う。


「俺が美容師になった理由はね、内緒」


こんな単純でダサイこと、恥ずかしくて言えるわけない。


「えっなんで?」


驚いた顔をして俺を振り向く杏寿に愛おしさが募る。


俺はいつだって杏寿にかっこいいって思われてたいから。だから言わない。



「それは俺が杏寿のことがどうしようもなく好きだから」



いつまで経っても好きな子にかっこいいって思われたいのは、当然でしょ?


顔を赤らめる杏寿をみて、これからもずっとこんな日々が続けばいいのにって心から思った。
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