セカンド・ファーストラブ
唇が離れて、伊澄くんが私の顔を見て笑った。


「杏寿は案外俺の事わかってないね」

「え?」


私の涙が滲んだ目尻を撫でながら、慈しむような目を向けてくる。その視線だけで私はいつもドロドロに溶かされてること、きっと伊澄くんだって知らない。


「こんなにずっと杏寿のこと好きなのに、浮気なんてするわけないじゃん」


伊澄くんを疑ってしまった自分が、すごく恥ずかしくてしょうがなかった。最近の伊澄くんの行動で不安になってしまってたからっていって、疑心暗鬼になりすぎていた。

·····ってあれ、さっきのLINEは置いといて、スマホを見てる時間が格段に増えたり、私に何かを隠してるようなのはなんだったんだろう。スタイリスト昇格試験は隠すほどのことじゃないよね?


「·····ねぇ、伊澄くん。これは疑ってるとかじゃなくて純粋な疑問だけど、最近私に隠れてなんかコソコソしてない?ほんとにもう疑ってるとかじゃないんだけど·····」


私の言葉に、伊澄くんの表情が固まった。え、その反応はどういう反応なんだろう。


少しして伊澄くんが深いため息を吐いたあと、何かを決心したような顔で正座をして私をじっと見上げた。



「あの、」

「うん?」

「·····指のサイズ、教えてください」

「え?」


思わずパチパチと瞬きしてしまった。え、それはつまりそういう、え、いやでも早とちり?


伊澄くんは混乱しだした私の目をじっと見据えて、「もちろん、ここの」と私の左薬指を撫でてそう言った。
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