虐げられ幼女は、神子だろうと聖騎士パパ&もふもふお兄ちゃんたちと平凡に生きたい
「サフィには言えるのに、か」

「あとでちゃんと教えるから!」

 御者は馬車にのり込みながら娘と話すゼノハルトの表情に驚いていた。

 彼の主人がこんなふうに他人と話していて笑うなど、長年勤めていて見た例がない。妻が存命だったときは違ったかもしれないが、少なくともここ数年では初めてだ。

「あとがいつになるか楽しみにしている」

「今日の夜には教えてあげるー」

「それなら今言うのも変わらないのではないのか」

 御者台にのってもまだ、ふたりの楽しげな声が聞こえる。

 馬を走らせながら、彼は遅い冬にようやく春が訪れたような温かい気持ちになった。



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