君との恋の物語-Obverse-
6
喫茶店に着くと、片桐君が、例の席から手を振ってくれた。
まだ待ち合わせの15分前だけど。。
「ごめん、待たせて」
『いや、いい。それより、なんかすっきりしてんな。仲直りしたか?』
だから
「そもそもケンカなんかしてないよ!」
ふざけて、怒ってみた
『いいんじゃん?今までで一番かわいい』
は?か。。
「え?」
『可愛いって言ったの。わかる?かわいい』
やめてよ。恥ずかしい。。
『で、どうなったんだよ』
。。
「うん、ちょっといろいろあったんだけど。」
私は、昨日までのことをおおまかに話した。
乗り越えられたのは、片桐君が助けてくれたからだってことも。
『いや、俺は、まぁ、いいよ』
え?元気ないの?
「どうしたの?元気ない?」
『なんだよ、自分が元気になった途端に人の心配か?』
なによ。心配してるのに
「いや、そうじゃないけど。。」
『。。冗談だよ。』
意地悪。。なんか
『単純にほっとしたの半分。寂しいのが半分。かな。』
恒星みたい。
「え?」
『よかったな』
いや、ちょっと待って
「なに?寂しいって」
『お前が頼ってくることがなくなると思うと寂しいってことだよ。』
「いや、そんな。。」
なんでそんな恥ずかしいことそんなに堂々と言えるの?
『気にしなくていい。半分はほっとしたって言っただろ?』
いや、そうだけど。。
『あぁ、そうだ、前から聞きたかったんだけど、さぎりはなんでこの大学にしたんだ?』
え?
「いや、なんでって、」
家から一番近い国立だから、だけど
『県内の国立だからか?』
「まぁ、そんなところかな。」
『そっか。まぁ、宇大はそれなりのレベルだからな。入るの大変だよな。』
そんな他人事みたいに。。
「うん。片桐君は?」
『あ、悪い、その片桐君ていうのやめないか?仲間内では、男女関係なく詩乃だから』
それはちょっと、ハードル高いような。
『べつにいいだろ?呼び方なんて。友達であることに変わりはないんだから。』
まぁ、そうだけど。。
「じゃぁ、詩乃君、は?」
『俺は、常にトップでいられる大学を選んだんだ。』
常に、トップ?
「それって、どういう」
『そのままの意味だよ。この大学なら、俺は4年間学年トップでいられる。もっとレベルの高いところにも行けたかもしれないけど、俺はトップにしか興味がないから』
本当に?その見た目で、そんなに頭いいの?
『さぎり、お前今俺を疑っただろ?』
睨みながら微笑んでる。最初は怖かったけど、話してみたらそうでもないかも。。
「いや、そんなことないけど。。」
大いにあるけど。
「トップって、常に1位でいたいってこと?トップレベルとかではなく。。?」
だとしたらもう、次元が違う気がする。。
『そう。1番。俺が1番尊敬している人が言ってたんだ。1番以外は全部同じだって。だからいつでも1番を目指せって。まぁ、俺は目指すことはやめて狙ってるから、そう言う意味では、違うけど。』
いや、狙って1番でいられるって相当すごいと思うけど。。
「じゃ、今までもずっと、1番?」
『うん。勉強も、部活も、恋愛も。常に1番にしか興味がないから、1番になれないと思った物は潔くやめてきた。』
なんか、すごいな。そんな考え方もあるんだなぁ。
「すごいね。そんな考え方の人もいるんだ。」
『変わってるよな。自分でもそう思うわ』
え?なんでちょっと元気ないの?
「。。。どうしたの?」
『え?なにが?』
あれ?私の勘違いかな。。?
「いや、なんか、元気ないのかと思って。。」
『あー、別に。大丈夫。』
なに、その反応。。なにかありそうだけど。。?
「ねぇ、本当に?」
『大丈夫だよ。あぁ、ちょっと1番になれなかった時の事を思い出しただけだよ。大したことじゃないんだ。』
そうは見えないけど。。
「そうなの?聞くだけなら、私でもできるけど。。」
『大丈夫。そのうち話すよ。さぎりは、察しがいいな。』
いや、そんなことないと思うけど。
「そっか。わかった。」
『...な、お前の1番は。』
え?
「え?なに?」
『いや、いい。そろそろ行くか?』
あ、もうこんな時間。
「うん。あ、あの、この間は本当にありがとうね。」
『いいって。気にするな。よし、行こう。』
。。やっぱりちょっと元気ないよね?
大学の北門着いた。
授業中だからか、人はほとんどいない。
喫茶店を出てから、詩乃君はあまりしゃべらなくなった。
ちょっと、考え事をしているみたいだったので、私も話しかけなかった。
「あ、じゃ私、こっちだから。」
『お?あぁ、またな』
「うん、またね!」
って行こうとしたら
!!
手を掴まれた。え?
「え?なに?」
慌てて手を引っ込める。すっと離してくれた。
『あのさ、言おうか迷ったんだけど、やっぱり言っとくわ。俺のこと、嫌いになるかもしれないけど、さぎりと、お前の1番の為にも、言っとくわ。』
なに、急に。どういうこと?
「な、なに?」
『あのな、別にお前達の付き合い方も知らないし、お前の1番のことも知らないけど、多分、多分だけど、お前、彼氏に頼ること自体が負担になるって思ってるだろ?それ、間違ってるぞ。大事なのは、お互いに言いたいことをはっきり言えることじゃないのか?ずっと我慢してたんじゃないのか?』
「そんなことないよ!いや、仮にそうだったとしても、それがなに?」
『。。まぁ、違うなら、別にいいけど、一応最後まで聞いてくれ。俺はこの間のお前の様子を見て思ったから言ってるんだ。お前にはな、思ったことをちゃんと言える、正面から向き合ってくれる男の方がいいんだよ。まとめてから話すことだって大事だけど、それだけでは駄目だ。例えまとまってなかったとしても、話し合うことも大事だ。それでケンカになったとしても。丸く収まるようにだけ話してたら、いつかお互いに言いたい事を、本当になにも言えなくなるんじゃないのか?』
「なにそれ!私達はちゃんと話してるし、それでお互い納得してるんだよ!?なんでそんなこと…」
『潰れるまで溜め込んで言葉が出なくなる程追い詰められていたのは誰だ?』
「それは、私が」
『悪い訳ないだろうが。なんでお前の彼氏は1番にお前を見てないんだ?俺だったら、お前がなにか隠してるなら絶対に気付くし、絶対に吐かせる。あんなに追い詰められるまでさぎりをほっといたりしない。さぎりは彼氏に助けて欲しかったんじゃないのか?何故1番近くにいるやつが気付かないんだよ。おかしいだろ。俺はな、さぎりのあんな姿は二度と見たくない。これからもあんなに追い詰められるようなら今の彼氏とは』
「やめて。」
だめだよ、それ以上は。
「それ以上は、言わないで。ごめんね、私のこと心配してくれたのに。」
『またそうやって逃げるのか?ムカついたなら、俺にだって怒ればいいだろ。』
「感情的になることが話し合いじゃないでしょ。もう、やめよ。」
『いや、やめない。お前には、俺みたいに最初から最後まで向き合ってくれるやつの方が絶対にいい。俺なら全部聞いてやるし、なにも隠さない。お前だけを1番に見ていられるんだ。』
もう、何も言いたくなかった。私は黙って歩き出す。
さすがに追ってはこなかった。
なんなのよ。せっかく仲直りできたのに、水差すようなことしないでよ。
今回は、言えなかった私が悪かったの。だから、もういいの。これからはお互いの時間を作ってちゃんと話そうって言ってくれたし、二人で納得してそう言う結論に至ったんだから。いくら助けてくれたからってあそこまで言われる筋合いはないよ。
私達は、絶対大丈夫だよね?
恒星、会いたいよ。
『二人の時間を増やしていこう』
そう言ったのは、まだ昨日の話。だから、すぐに何かが変わる訳ない。ここ数日分のバイトは、もう出してしまっているだろうし。
だけど、なんだろ。。ひっかかる。
『お互いに言いたいことを、本当になにも言えなくなるんじゃないのか?』
いや、違う!!今は、まだ忙しくて連絡できないだけだよ。きっとそうだよ。
二人で出した答えだもん。まだなにか考えてるなんてことは、絶対
『丸く収まるようにだけ話をしていたら、いつか言いたいことが言えなくなるぞ』
違うってば。。もうやめてよ。
『俺なら、お前が苦しんでいたら絶対に気付くし、お前を1番に見ていられるんだ』
やめてってば!!
こんなこと思い出すなんて。。
最低。
..
なんでこんなに上手くいかないの。。?
もう、限界だった。このままだと本当に病みそう。。
もういいよね?恒星、会いたいってメールしていいよね?
なんで?なんで私はこんなに、全ての答えを恒星に求めてるの?
いつからこんなに、自分で考えられるなくなっちゃったの?
恒星。助けてよ。。
【会いたい】
一言だけメールした。
メールが帰ってきたのは、授業が終わってからだった。
【どうした?今日はバイトだけど、どうしてもなら、終わってからでも会えるけど。今日は、20時までだから。】
【何時でもいいよ。会ってくれるなら、迎えに行っていい?】
【うん。かまわないけど、来るなら、気をつけてきてね?暗いし。】
【大丈夫。ありがと。】
家に帰りたくなくて、大学の最寄り駅にある喫茶店にいた。
こんなにゆっくり時間を過ごすのは、すっごく久しぶりに思えた。
まだ大学に入って一ヶ月も経ってないのに。
いつの間にこんなに時間に追われるようになっていたんだろ。
この一ヶ月、私にはいいことだって沢山あった。
恒星が、初めてのお揃いに素敵な指輪をくれたこと。
とってもお洒落なお店でバイトを始めたこと。
大学でも友達ができた。
なのに、なんでこんなに辛いんだろ。
辛いばっかりが記憶にあって、嬉しいこと、楽しいことは、もう随分昔のことみたいに色褪せてしまったみたい。
左手を見れば、指輪はある。まだまだ綺麗な指輪。
私はそれを付けていられることがとても誇らしかったのに、今は、なんだか私には似合ってないみたいに見える。。
苦しいことばっかりが頭の中を支配していて、幸せだったことだけ消えていってしまう。沢山愛してくれているのに、まだ求めてる。。そんな私に、この指輪は綺麗過ぎる。。
ハーベストの入り口に着いたのは、20時になる5分くらい前。
暗くて怖いので、なるべく明るいところにいた。
!電話。
「もしもし?」
『終わったよ。どこにいる?』
あぁ恒星の声だ。昨日会ったばかりなのに、随分久しぶりみたい。
電話しながら、すぐにお互いのことを見つけて切った。
『大丈夫か?』
全然、もうだめかも。
「会いたかったの」
『なにかあったのか?』
いい、もう、会えたから、言葉なんていらない。
私はその場で恒星に抱きついた。
なにも言わずに抱きしめてくれた。
ありがとう。
また涙が出る。なんで泣いてるんだろ?
背中をさするでもなく、黙って見守るのでもなく、恒星は私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。私の様子を見て、もう限界なのが伝わったんだと思う。
色々あったけど、もういい。恒星がいてくれたらもう何もいらない。学校も、バイトも、友達も。。。
『さぎり』
恒星が耳元で聞いた。
「ん。ごめんね。どこにも行かないで」
恒星は、それには答えてくれない。お願い、答えてよ。
『俺こそごめん。こんなになるまで放って置いて。。もっと早くに助けるべきだった。』
いいの。もう。これだけで
「いいの。こうしててくれたら、それだけで。。だから、どこにも行かないで。」
また答えてくれない。。どうして。。
「ねぇ、答えてよ。」
何も言わない。。え?
「恒星?」
まだ黙っている。
「どうしたの?」
『いや、どうもしないよ。』
え?怒っているの?でも。。
「ねぇ?恒星?」
『悪い、ちょっと待ってくれ。』
どう言うこと?
『ちょっと待ってくれって言ったんだ。いきなり泣くだけ泣いてどこにも行かないでと言われても、ちょっと意味がわからない。。』
「。。。ごめん」
これしか言えない。。恒星の顔から表情が消えて、まるで私のことなんか見えてないみたいだった。
『俺はどこにも行かない、だけど、今日はもう帰ろう。』
そんな。言葉だけ言われたって。。!
「待って!待ってよ!!」
私は、今その言葉が欲しいの!!私だってずっと、我慢してきたんだから!!
(俺なら、一番にお前を見ていられるんだ!)
私が見ていて欲しいのは恒星なの!!恒星だけなの!!
「ねぇ、ちゃんと私のこと見て好きって言ってよ!大事だって言ってよ!!何もなかったら急に会いにきたりしないもん!!ただ抱きしめてよ!一緒にいて不安を消してよ!!ちゃんと私を見てよ!!」
『何を、言ってるんだ。。?』
「え?」
『何を言ってるんだと聞いてるんだよ。今まで俺の何を見てきてそんなこと言ってるんだ?』
「何って、、」
恒星の顔がよく見えない。泣いてるからなのかなんなのか、もうわからなかった。
『それ。』
恒星が私の左手を指さしているのはなんとなくわかった。
『俺がそれを渡すために、どれだけ時間をかけたか話したよね?それは、俺の苦労を理解して欲しくて話したんじゃない。俺がさぎりを思う気持ちがどれだけ大きいかをわかってほしかったからだ。その想いも、2年間の思い出も、感謝も、全て込めてプレゼントしたものだ。』
そんなの、わかってるよ
「それは、わかって、」
『わかってない!』
恒星が私の前で初めて大きな声を出した。
私は体が強張ってしまった
『わかっているなら、何故そんなに不安なんだ?俺が助けてくれないからか?助ける助けないよりもまず、自分は何か行動したのか?店長や、他のバイトの人にでも相談したのか。人間関係が難しいのはわかる、だけど、バイト先でのことは俺は何もできない。外部の人間なんだから。それに、そうやって自分が行動する前に優しくしてほしいみたいなのは、依存じゃないのか?』
途中からよく聞き取れなかった。
ただ漠然と
「どうして。そんなこと言うの?」
そう思っていた。気付いたら言葉が出ていた。
『わからないのか?』
「言ってることはわかるけど、なんで今そんなこと言うの?」
これまでずっと頑張ってきたのに、なんで今なの?
『我慢の、限界だからだ。』
我慢?
「ずっと、我慢してたの?いつから?」
どうして?どうして言ってくれなかったの?どうして今言うの?
『わからない。気づいたら限界だった。』
なんで今なの?
「詩乃くんは、いつだって優しいのに」
言葉にしたのか思っただけなのか、自分でもわからなかった。
『今日は、もうやめようよ。』
そう。。
今日話してくれないなら、いつなの?
「ねぇ、恒星?」
どうしてわかってくれないの?
『うん、何?』
「恒星は、私が、誰かのところに行ってしまってもいいの?」
口に出してしまってから、ハッとした。
私、今なんて。。。
恒星の顔に表情が戻ったような気がした。
一気に体温が上がっているような、そんな気配を感じた。
怒ってるんだ。。。
『なんだ、それ。。?』
慌てて何か言わなきゃって思うんだけど、言葉が出てこない。。
何か言わなきゃ。
「違うの、ごめんなさ…」
『いいかげんにしろ。』
ゾッとした。恒星の声が冷たい。
気配はものすごく怒っているのに、声だけが冷静で、ものすごく怖かった。
「あの、私….」
続ける言葉が出てこない。。
『…ばいい。』
え?
「ごめん、聞こえない」
『いけばいいだろうと言ったんだ。人の気も知らないで。ここ最近、すれ違いが多かったよな。だから話し合いも少なかったし、辛い思いをさせてしまった自覚もある。だから、これからは二人の時間をちゃんと作っていこうと話したばかりだ。俺は、さぎりの様子が落ち着いたら自分が何を考えてきたのか、感じてきたのかちゃんと話すつもりだったんだ。だけど、もういい。会いたいと言うから心配して、会ってみたら結局また同じだった。冷静に言葉を選んで話し合えないから、今日はやめようと言ったのに。俺の気持ちを無視して出てきた言葉が、(誰かのところに行ってもいいの?)だって?俺のことをなんだと思ってるんだ。もう聞きたくない。その誰かにでも聞いてもらえばいいよ』
そんな。。
「そんな。ねぇ、待ってよ」
『責任取れない言葉なら、口に出すべきじゃないよ。それに、言われた言葉は消せない。どう言うつもりで言ったかは知らないけど、さぎりの中に俺以外の男がいることだけはわかった。俺のフリして大久保を追っ払ったとか言うのもその男だろう?』
どうしよう。。何も言えない。。
『ほら、何も言わない。さっきから自分の言いたいことだけ言って何も答えてくれないじゃないか。そう言うところが気に入らないんだ。』
「恒星だって聞いてくれなかったじゃん!」
反射的に答えてしまった。またやっちゃった。。。
『だから、これからは話をできるようにしようって言ったんでしょ?さぎりにも事情があるのと同じで、俺にだって崩せないペースがあるんだよ。どうしてそんなに一方的なんだ?』
もう、だめだ。多分、私が積み重ねてきたことが、恒星の中で限界を越えちゃったんだ。
もう遅いんだ、後悔しても。。
それに。。
「わかった。今までごめんなさい。」
恒星がため息をつく。
『お互い様だよ。俺がもう少し早くに時間を作っていたら、さぎりの気持ちが他の人に向くこともなかったかもな。』
私の中に、詩乃くんという存在がいると言うことも、認めざるを得なかった。
思い詰めて、行き詰まった時、詩乃君の言葉を思い出したのも事実だし。
『俺は、さぎりと付き合っていて、いつからか相談しなくなってるなって思ってた。相談しても、考えるのも決めるのも自分だって、思ってたし。でも、何度かさぎりに相談した時に、感じた、なんて言うのかな。(わかってあげられないもどかしさ)も原因の一つだった。こう言うことも、ちゃんと言うべきだったんだよな。』
やっぱり、恒星も感じていたんだ。
「それも、ずっと我慢してきたの?」
これ以上聞くのは怖かった。でも、聞くしかない。
『いや、我慢してきたつもりはない。けど、今回俺が自分の気持ちを言えなかった理由には繋がっているかもしれない。』
「そう、ごめんね。」
『苦しかったのはお互い様だよ。それに、他の誰かに気持ちが移りかけてるのも。』
は?何言ってるの?
「何言ってるの?」
『今日の朝、たまたま学校の友達と駅で会ったんだ。そしたら、様子がおかしいって心配してくれて、お茶に誘われた。少し迷ったけど、正直さぎりのことを考えたくなかった。他の男に俺のふりされたことも、店長にさぎりをよろしくとか言われたのも、全部気に入らなかったからな。考えてもしょうがないとは思っても、考えてしまうし、恨むなと言われても、無理だ。それに、この状況は、全部俺がさぎりと寄り添わなかったことが原因なのか?って考えもあったけど、全部俺が悪いとは思いたくもなかった。そう言う現実から逃れたかったから、結局ついて行った。』
恒星らしくない。さっきから話がまとまってなくてわかりにくい。。
私は、こんなになるまで恒星を追い詰めてしまっていたの?
『正直、今日、その友達といる間は気持ちが楽だった。さぎりに悪いと言う気持ちもあったけど。だから、お互い様だよ。』
「その人のこと好きなの?」
ずるい。私、最低。
『今は好きじゃない。それに、その人が俺をどう思ってるかも知らない。』
どう言う意味?いや、これは、私が聞いていいことじゃない。。
「そっか。ほんとは、私が聞いてあげなきゃいけなかったのにね。。」
『お互い様だよ。』
本当に?本当にもう終わりなの?
「もう、やり直すことはできないの?」
私、本当にずるい。。
『できないと思う。お互いにここまで話してしまったら、もう信用できないだろう?』
恒星、すごく冷静。いや、私もか。。
『キリがないからやめよう。寂しいけど、俺たちは、もうだめだよ。』
そんなこと言わないでよ。私は、ただ恒星に、どこにもいくなって言って欲しかっただけなのに。。
もう、やめよう。。これ以上、自分の汚いところを見たくない。
「ごめんなさい。さようなら」
歩き出したら、どんどん悲しくなって、やるせなくなって。。
走り出した。このまま消えてなくなりたい。。
言いたかったことも聞きたかったことも、なにも届かないまま終わってしまうんだ。。
私は本当に馬鹿だ。
最低。
もうなにも戻ってこない。
全部なくしてしまった。。
足を止めたくない。走って走ってこのまま消えたい。。
まだ待ち合わせの15分前だけど。。
「ごめん、待たせて」
『いや、いい。それより、なんかすっきりしてんな。仲直りしたか?』
だから
「そもそもケンカなんかしてないよ!」
ふざけて、怒ってみた
『いいんじゃん?今までで一番かわいい』
は?か。。
「え?」
『可愛いって言ったの。わかる?かわいい』
やめてよ。恥ずかしい。。
『で、どうなったんだよ』
。。
「うん、ちょっといろいろあったんだけど。」
私は、昨日までのことをおおまかに話した。
乗り越えられたのは、片桐君が助けてくれたからだってことも。
『いや、俺は、まぁ、いいよ』
え?元気ないの?
「どうしたの?元気ない?」
『なんだよ、自分が元気になった途端に人の心配か?』
なによ。心配してるのに
「いや、そうじゃないけど。。」
『。。冗談だよ。』
意地悪。。なんか
『単純にほっとしたの半分。寂しいのが半分。かな。』
恒星みたい。
「え?」
『よかったな』
いや、ちょっと待って
「なに?寂しいって」
『お前が頼ってくることがなくなると思うと寂しいってことだよ。』
「いや、そんな。。」
なんでそんな恥ずかしいことそんなに堂々と言えるの?
『気にしなくていい。半分はほっとしたって言っただろ?』
いや、そうだけど。。
『あぁ、そうだ、前から聞きたかったんだけど、さぎりはなんでこの大学にしたんだ?』
え?
「いや、なんでって、」
家から一番近い国立だから、だけど
『県内の国立だからか?』
「まぁ、そんなところかな。」
『そっか。まぁ、宇大はそれなりのレベルだからな。入るの大変だよな。』
そんな他人事みたいに。。
「うん。片桐君は?」
『あ、悪い、その片桐君ていうのやめないか?仲間内では、男女関係なく詩乃だから』
それはちょっと、ハードル高いような。
『べつにいいだろ?呼び方なんて。友達であることに変わりはないんだから。』
まぁ、そうだけど。。
「じゃぁ、詩乃君、は?」
『俺は、常にトップでいられる大学を選んだんだ。』
常に、トップ?
「それって、どういう」
『そのままの意味だよ。この大学なら、俺は4年間学年トップでいられる。もっとレベルの高いところにも行けたかもしれないけど、俺はトップにしか興味がないから』
本当に?その見た目で、そんなに頭いいの?
『さぎり、お前今俺を疑っただろ?』
睨みながら微笑んでる。最初は怖かったけど、話してみたらそうでもないかも。。
「いや、そんなことないけど。。」
大いにあるけど。
「トップって、常に1位でいたいってこと?トップレベルとかではなく。。?」
だとしたらもう、次元が違う気がする。。
『そう。1番。俺が1番尊敬している人が言ってたんだ。1番以外は全部同じだって。だからいつでも1番を目指せって。まぁ、俺は目指すことはやめて狙ってるから、そう言う意味では、違うけど。』
いや、狙って1番でいられるって相当すごいと思うけど。。
「じゃ、今までもずっと、1番?」
『うん。勉強も、部活も、恋愛も。常に1番にしか興味がないから、1番になれないと思った物は潔くやめてきた。』
なんか、すごいな。そんな考え方もあるんだなぁ。
「すごいね。そんな考え方の人もいるんだ。」
『変わってるよな。自分でもそう思うわ』
え?なんでちょっと元気ないの?
「。。。どうしたの?」
『え?なにが?』
あれ?私の勘違いかな。。?
「いや、なんか、元気ないのかと思って。。」
『あー、別に。大丈夫。』
なに、その反応。。なにかありそうだけど。。?
「ねぇ、本当に?」
『大丈夫だよ。あぁ、ちょっと1番になれなかった時の事を思い出しただけだよ。大したことじゃないんだ。』
そうは見えないけど。。
「そうなの?聞くだけなら、私でもできるけど。。」
『大丈夫。そのうち話すよ。さぎりは、察しがいいな。』
いや、そんなことないと思うけど。
「そっか。わかった。」
『...な、お前の1番は。』
え?
「え?なに?」
『いや、いい。そろそろ行くか?』
あ、もうこんな時間。
「うん。あ、あの、この間は本当にありがとうね。」
『いいって。気にするな。よし、行こう。』
。。やっぱりちょっと元気ないよね?
大学の北門着いた。
授業中だからか、人はほとんどいない。
喫茶店を出てから、詩乃君はあまりしゃべらなくなった。
ちょっと、考え事をしているみたいだったので、私も話しかけなかった。
「あ、じゃ私、こっちだから。」
『お?あぁ、またな』
「うん、またね!」
って行こうとしたら
!!
手を掴まれた。え?
「え?なに?」
慌てて手を引っ込める。すっと離してくれた。
『あのさ、言おうか迷ったんだけど、やっぱり言っとくわ。俺のこと、嫌いになるかもしれないけど、さぎりと、お前の1番の為にも、言っとくわ。』
なに、急に。どういうこと?
「な、なに?」
『あのな、別にお前達の付き合い方も知らないし、お前の1番のことも知らないけど、多分、多分だけど、お前、彼氏に頼ること自体が負担になるって思ってるだろ?それ、間違ってるぞ。大事なのは、お互いに言いたいことをはっきり言えることじゃないのか?ずっと我慢してたんじゃないのか?』
「そんなことないよ!いや、仮にそうだったとしても、それがなに?」
『。。まぁ、違うなら、別にいいけど、一応最後まで聞いてくれ。俺はこの間のお前の様子を見て思ったから言ってるんだ。お前にはな、思ったことをちゃんと言える、正面から向き合ってくれる男の方がいいんだよ。まとめてから話すことだって大事だけど、それだけでは駄目だ。例えまとまってなかったとしても、話し合うことも大事だ。それでケンカになったとしても。丸く収まるようにだけ話してたら、いつかお互いに言いたい事を、本当になにも言えなくなるんじゃないのか?』
「なにそれ!私達はちゃんと話してるし、それでお互い納得してるんだよ!?なんでそんなこと…」
『潰れるまで溜め込んで言葉が出なくなる程追い詰められていたのは誰だ?』
「それは、私が」
『悪い訳ないだろうが。なんでお前の彼氏は1番にお前を見てないんだ?俺だったら、お前がなにか隠してるなら絶対に気付くし、絶対に吐かせる。あんなに追い詰められるまでさぎりをほっといたりしない。さぎりは彼氏に助けて欲しかったんじゃないのか?何故1番近くにいるやつが気付かないんだよ。おかしいだろ。俺はな、さぎりのあんな姿は二度と見たくない。これからもあんなに追い詰められるようなら今の彼氏とは』
「やめて。」
だめだよ、それ以上は。
「それ以上は、言わないで。ごめんね、私のこと心配してくれたのに。」
『またそうやって逃げるのか?ムカついたなら、俺にだって怒ればいいだろ。』
「感情的になることが話し合いじゃないでしょ。もう、やめよ。」
『いや、やめない。お前には、俺みたいに最初から最後まで向き合ってくれるやつの方が絶対にいい。俺なら全部聞いてやるし、なにも隠さない。お前だけを1番に見ていられるんだ。』
もう、何も言いたくなかった。私は黙って歩き出す。
さすがに追ってはこなかった。
なんなのよ。せっかく仲直りできたのに、水差すようなことしないでよ。
今回は、言えなかった私が悪かったの。だから、もういいの。これからはお互いの時間を作ってちゃんと話そうって言ってくれたし、二人で納得してそう言う結論に至ったんだから。いくら助けてくれたからってあそこまで言われる筋合いはないよ。
私達は、絶対大丈夫だよね?
恒星、会いたいよ。
『二人の時間を増やしていこう』
そう言ったのは、まだ昨日の話。だから、すぐに何かが変わる訳ない。ここ数日分のバイトは、もう出してしまっているだろうし。
だけど、なんだろ。。ひっかかる。
『お互いに言いたいことを、本当になにも言えなくなるんじゃないのか?』
いや、違う!!今は、まだ忙しくて連絡できないだけだよ。きっとそうだよ。
二人で出した答えだもん。まだなにか考えてるなんてことは、絶対
『丸く収まるようにだけ話をしていたら、いつか言いたいことが言えなくなるぞ』
違うってば。。もうやめてよ。
『俺なら、お前が苦しんでいたら絶対に気付くし、お前を1番に見ていられるんだ』
やめてってば!!
こんなこと思い出すなんて。。
最低。
..
なんでこんなに上手くいかないの。。?
もう、限界だった。このままだと本当に病みそう。。
もういいよね?恒星、会いたいってメールしていいよね?
なんで?なんで私はこんなに、全ての答えを恒星に求めてるの?
いつからこんなに、自分で考えられるなくなっちゃったの?
恒星。助けてよ。。
【会いたい】
一言だけメールした。
メールが帰ってきたのは、授業が終わってからだった。
【どうした?今日はバイトだけど、どうしてもなら、終わってからでも会えるけど。今日は、20時までだから。】
【何時でもいいよ。会ってくれるなら、迎えに行っていい?】
【うん。かまわないけど、来るなら、気をつけてきてね?暗いし。】
【大丈夫。ありがと。】
家に帰りたくなくて、大学の最寄り駅にある喫茶店にいた。
こんなにゆっくり時間を過ごすのは、すっごく久しぶりに思えた。
まだ大学に入って一ヶ月も経ってないのに。
いつの間にこんなに時間に追われるようになっていたんだろ。
この一ヶ月、私にはいいことだって沢山あった。
恒星が、初めてのお揃いに素敵な指輪をくれたこと。
とってもお洒落なお店でバイトを始めたこと。
大学でも友達ができた。
なのに、なんでこんなに辛いんだろ。
辛いばっかりが記憶にあって、嬉しいこと、楽しいことは、もう随分昔のことみたいに色褪せてしまったみたい。
左手を見れば、指輪はある。まだまだ綺麗な指輪。
私はそれを付けていられることがとても誇らしかったのに、今は、なんだか私には似合ってないみたいに見える。。
苦しいことばっかりが頭の中を支配していて、幸せだったことだけ消えていってしまう。沢山愛してくれているのに、まだ求めてる。。そんな私に、この指輪は綺麗過ぎる。。
ハーベストの入り口に着いたのは、20時になる5分くらい前。
暗くて怖いので、なるべく明るいところにいた。
!電話。
「もしもし?」
『終わったよ。どこにいる?』
あぁ恒星の声だ。昨日会ったばかりなのに、随分久しぶりみたい。
電話しながら、すぐにお互いのことを見つけて切った。
『大丈夫か?』
全然、もうだめかも。
「会いたかったの」
『なにかあったのか?』
いい、もう、会えたから、言葉なんていらない。
私はその場で恒星に抱きついた。
なにも言わずに抱きしめてくれた。
ありがとう。
また涙が出る。なんで泣いてるんだろ?
背中をさするでもなく、黙って見守るのでもなく、恒星は私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。私の様子を見て、もう限界なのが伝わったんだと思う。
色々あったけど、もういい。恒星がいてくれたらもう何もいらない。学校も、バイトも、友達も。。。
『さぎり』
恒星が耳元で聞いた。
「ん。ごめんね。どこにも行かないで」
恒星は、それには答えてくれない。お願い、答えてよ。
『俺こそごめん。こんなになるまで放って置いて。。もっと早くに助けるべきだった。』
いいの。もう。これだけで
「いいの。こうしててくれたら、それだけで。。だから、どこにも行かないで。」
また答えてくれない。。どうして。。
「ねぇ、答えてよ。」
何も言わない。。え?
「恒星?」
まだ黙っている。
「どうしたの?」
『いや、どうもしないよ。』
え?怒っているの?でも。。
「ねぇ?恒星?」
『悪い、ちょっと待ってくれ。』
どう言うこと?
『ちょっと待ってくれって言ったんだ。いきなり泣くだけ泣いてどこにも行かないでと言われても、ちょっと意味がわからない。。』
「。。。ごめん」
これしか言えない。。恒星の顔から表情が消えて、まるで私のことなんか見えてないみたいだった。
『俺はどこにも行かない、だけど、今日はもう帰ろう。』
そんな。言葉だけ言われたって。。!
「待って!待ってよ!!」
私は、今その言葉が欲しいの!!私だってずっと、我慢してきたんだから!!
(俺なら、一番にお前を見ていられるんだ!)
私が見ていて欲しいのは恒星なの!!恒星だけなの!!
「ねぇ、ちゃんと私のこと見て好きって言ってよ!大事だって言ってよ!!何もなかったら急に会いにきたりしないもん!!ただ抱きしめてよ!一緒にいて不安を消してよ!!ちゃんと私を見てよ!!」
『何を、言ってるんだ。。?』
「え?」
『何を言ってるんだと聞いてるんだよ。今まで俺の何を見てきてそんなこと言ってるんだ?』
「何って、、」
恒星の顔がよく見えない。泣いてるからなのかなんなのか、もうわからなかった。
『それ。』
恒星が私の左手を指さしているのはなんとなくわかった。
『俺がそれを渡すために、どれだけ時間をかけたか話したよね?それは、俺の苦労を理解して欲しくて話したんじゃない。俺がさぎりを思う気持ちがどれだけ大きいかをわかってほしかったからだ。その想いも、2年間の思い出も、感謝も、全て込めてプレゼントしたものだ。』
そんなの、わかってるよ
「それは、わかって、」
『わかってない!』
恒星が私の前で初めて大きな声を出した。
私は体が強張ってしまった
『わかっているなら、何故そんなに不安なんだ?俺が助けてくれないからか?助ける助けないよりもまず、自分は何か行動したのか?店長や、他のバイトの人にでも相談したのか。人間関係が難しいのはわかる、だけど、バイト先でのことは俺は何もできない。外部の人間なんだから。それに、そうやって自分が行動する前に優しくしてほしいみたいなのは、依存じゃないのか?』
途中からよく聞き取れなかった。
ただ漠然と
「どうして。そんなこと言うの?」
そう思っていた。気付いたら言葉が出ていた。
『わからないのか?』
「言ってることはわかるけど、なんで今そんなこと言うの?」
これまでずっと頑張ってきたのに、なんで今なの?
『我慢の、限界だからだ。』
我慢?
「ずっと、我慢してたの?いつから?」
どうして?どうして言ってくれなかったの?どうして今言うの?
『わからない。気づいたら限界だった。』
なんで今なの?
「詩乃くんは、いつだって優しいのに」
言葉にしたのか思っただけなのか、自分でもわからなかった。
『今日は、もうやめようよ。』
そう。。
今日話してくれないなら、いつなの?
「ねぇ、恒星?」
どうしてわかってくれないの?
『うん、何?』
「恒星は、私が、誰かのところに行ってしまってもいいの?」
口に出してしまってから、ハッとした。
私、今なんて。。。
恒星の顔に表情が戻ったような気がした。
一気に体温が上がっているような、そんな気配を感じた。
怒ってるんだ。。。
『なんだ、それ。。?』
慌てて何か言わなきゃって思うんだけど、言葉が出てこない。。
何か言わなきゃ。
「違うの、ごめんなさ…」
『いいかげんにしろ。』
ゾッとした。恒星の声が冷たい。
気配はものすごく怒っているのに、声だけが冷静で、ものすごく怖かった。
「あの、私….」
続ける言葉が出てこない。。
『…ばいい。』
え?
「ごめん、聞こえない」
『いけばいいだろうと言ったんだ。人の気も知らないで。ここ最近、すれ違いが多かったよな。だから話し合いも少なかったし、辛い思いをさせてしまった自覚もある。だから、これからは二人の時間をちゃんと作っていこうと話したばかりだ。俺は、さぎりの様子が落ち着いたら自分が何を考えてきたのか、感じてきたのかちゃんと話すつもりだったんだ。だけど、もういい。会いたいと言うから心配して、会ってみたら結局また同じだった。冷静に言葉を選んで話し合えないから、今日はやめようと言ったのに。俺の気持ちを無視して出てきた言葉が、(誰かのところに行ってもいいの?)だって?俺のことをなんだと思ってるんだ。もう聞きたくない。その誰かにでも聞いてもらえばいいよ』
そんな。。
「そんな。ねぇ、待ってよ」
『責任取れない言葉なら、口に出すべきじゃないよ。それに、言われた言葉は消せない。どう言うつもりで言ったかは知らないけど、さぎりの中に俺以外の男がいることだけはわかった。俺のフリして大久保を追っ払ったとか言うのもその男だろう?』
どうしよう。。何も言えない。。
『ほら、何も言わない。さっきから自分の言いたいことだけ言って何も答えてくれないじゃないか。そう言うところが気に入らないんだ。』
「恒星だって聞いてくれなかったじゃん!」
反射的に答えてしまった。またやっちゃった。。。
『だから、これからは話をできるようにしようって言ったんでしょ?さぎりにも事情があるのと同じで、俺にだって崩せないペースがあるんだよ。どうしてそんなに一方的なんだ?』
もう、だめだ。多分、私が積み重ねてきたことが、恒星の中で限界を越えちゃったんだ。
もう遅いんだ、後悔しても。。
それに。。
「わかった。今までごめんなさい。」
恒星がため息をつく。
『お互い様だよ。俺がもう少し早くに時間を作っていたら、さぎりの気持ちが他の人に向くこともなかったかもな。』
私の中に、詩乃くんという存在がいると言うことも、認めざるを得なかった。
思い詰めて、行き詰まった時、詩乃君の言葉を思い出したのも事実だし。
『俺は、さぎりと付き合っていて、いつからか相談しなくなってるなって思ってた。相談しても、考えるのも決めるのも自分だって、思ってたし。でも、何度かさぎりに相談した時に、感じた、なんて言うのかな。(わかってあげられないもどかしさ)も原因の一つだった。こう言うことも、ちゃんと言うべきだったんだよな。』
やっぱり、恒星も感じていたんだ。
「それも、ずっと我慢してきたの?」
これ以上聞くのは怖かった。でも、聞くしかない。
『いや、我慢してきたつもりはない。けど、今回俺が自分の気持ちを言えなかった理由には繋がっているかもしれない。』
「そう、ごめんね。」
『苦しかったのはお互い様だよ。それに、他の誰かに気持ちが移りかけてるのも。』
は?何言ってるの?
「何言ってるの?」
『今日の朝、たまたま学校の友達と駅で会ったんだ。そしたら、様子がおかしいって心配してくれて、お茶に誘われた。少し迷ったけど、正直さぎりのことを考えたくなかった。他の男に俺のふりされたことも、店長にさぎりをよろしくとか言われたのも、全部気に入らなかったからな。考えてもしょうがないとは思っても、考えてしまうし、恨むなと言われても、無理だ。それに、この状況は、全部俺がさぎりと寄り添わなかったことが原因なのか?って考えもあったけど、全部俺が悪いとは思いたくもなかった。そう言う現実から逃れたかったから、結局ついて行った。』
恒星らしくない。さっきから話がまとまってなくてわかりにくい。。
私は、こんなになるまで恒星を追い詰めてしまっていたの?
『正直、今日、その友達といる間は気持ちが楽だった。さぎりに悪いと言う気持ちもあったけど。だから、お互い様だよ。』
「その人のこと好きなの?」
ずるい。私、最低。
『今は好きじゃない。それに、その人が俺をどう思ってるかも知らない。』
どう言う意味?いや、これは、私が聞いていいことじゃない。。
「そっか。ほんとは、私が聞いてあげなきゃいけなかったのにね。。」
『お互い様だよ。』
本当に?本当にもう終わりなの?
「もう、やり直すことはできないの?」
私、本当にずるい。。
『できないと思う。お互いにここまで話してしまったら、もう信用できないだろう?』
恒星、すごく冷静。いや、私もか。。
『キリがないからやめよう。寂しいけど、俺たちは、もうだめだよ。』
そんなこと言わないでよ。私は、ただ恒星に、どこにもいくなって言って欲しかっただけなのに。。
もう、やめよう。。これ以上、自分の汚いところを見たくない。
「ごめんなさい。さようなら」
歩き出したら、どんどん悲しくなって、やるせなくなって。。
走り出した。このまま消えてなくなりたい。。
言いたかったことも聞きたかったことも、なにも届かないまま終わってしまうんだ。。
私は本当に馬鹿だ。
最低。
もうなにも戻ってこない。
全部なくしてしまった。。
足を止めたくない。走って走ってこのまま消えたい。。