檸檬色の日々
褐色の髪を泳がせ、大きく手を振りながらこちらに駆けてくる青年の姿。
「ヒカリ」と私は呼んでいた。
彼は照れを隠すようにそっぽを向き「教えた名前で呼ばねーの?」と問いかけてくる。
大きく頷いて「気に入ってるの」と返事をした。
毎朝の家事と仕事を終え、太陽が昇り切る少し手前。職場を抜け出し、建物から建物の陰へ移り人目を気にしながら何処かへ歩いてく。
そこは隠れられる場所もない広く豊かなひまわり畑だった。
待ち合わせ場所なのかヒカリは必ずそこで待っていて、私がたどり着けば無邪気な八重歯を覗かせ、何も臆することなく私の手を温い指先で迎えてくれる。
ふわりと抱き寄せられた先に、いとおしいと感じる心音が聴こえてきて。
「サン、いつまでも、一緒にいよう」
色のある言葉。
私はそれにどう答えたら良いのか、わかっているのに、答えて良いのか不安がっている様子で。
返事の代わりにそっと距離をつくり、赤いくちびるに自分の拙いものを重ねるために背伸びをする。
その夢はたっぷりの幸せと、それを一瞬で壊す苦みで、できていた。