野球とソフトボール
ことの発端は、3ヶ月ほど前。
先輩たちが引退してからだ。
ソフトボール部でキャッチャーをしている私は、スローイングに悩んでいた。
動作がどうしても早くならず、盗塁を阻止できない。
先輩が引退して、正捕手が私になる。
何とかしようと、先生に相談したのだ。
先生は、事もなげに言った。
「お前、フォームに無駄が多いんだよ。
野球部の徳永がいるだろう?
あいつ上手いから、よく見て参考にしてみろよ」
徳永くんは、守備も打撃もオールマイティにこなす。
センスの塊のような人だとは、思っていた。
同じキャッチャーというポジション。
成る程と納得した。
それから、同じ時間帯にグラウンドを使う日には、必ず徳永くんを観察するようになった。
確かに無駄な動作がなく、美しいまでのフォーム。
いいお手本がいる‼︎
正直、熱い視線を送っていた自覚がある。
盗めるだけ全部、盗んでやる。
そう思ってそれは熱心に、チラチラ見ていた。
そうするうち、時々目が合うようになった。
嫌そうに顰められる顔を見て、誤解されているのは分かっていたけど、彼を参考にするようになってから、私はどんどん上手くなっていた。
上手くなる快感...そのためなら、蔑みの視線にも耐えてみせよう!
でも、不快な思いをさせるのは本意ではないから、何度か事情を説明するために話しかけようとしたのだ。
その度に、逃げられたり睨まれたり。
小心者の私には、中々ハードルが高かったのだ。
今日説明ができて良かった、あーホッとした。
「....ふーん、そういうこと」
何とか納得してくれたようだ。
「本当にごめんね、お陰でだいぶ良くなったよ!
構えるまでの動作、かなり早くなったから、だいぶ盗塁阻止率上がったよ!」
嬉しさに、思わず顔が綻ぶ。
ニッコリ笑った私から一度ふっと目を逸らすと、彼は少し照れたような感じで呟くように言った。
「...そういうことなら、見てくれていい。
因みに、どの辺を変えたんだ?」
身振り手振りで説明していくと、どんどん彼の眸がキラキラし始める。
本当に野球が好きなんだなあ。
私の説明に、更にアドバイスをくれる。
わいわい議論していると、先生が早く帰れと言いにきた。