野球とソフトボール
その日から、私は徳永くんとよく話すようになった。
専ら、私の相談に、彼がアドバイスをくれる感じだ。
なるべく人目は避けた方がいいと思ったけど、クラスメイトである以上、中々そういう訳にはいかなかった。
隠れて会うとか、更に誤解を招きそうだし、私には何も後ろめたいことはないし。
勿論、彼のファンの女の子達から、最初のうちは睨まれた。
でも本当に野球とソフトボールの話しかしないと分かると、いつしか誰も何も言わなくなった。
——そうして、最初に話してから半年以上が経った。
私はかなり上手くなり、県内で1、2を争うキャッチャーと言われる程になった。
(チーム数が少ないから、などと言ってはいけない!)
自慢は、肩の強さを活かした盗塁阻止率と、キャッチングだ。
バッティングは、中々上達しない。
彼に言わせると、下半身の使い方が雑らしいのだか、感覚的にまだ分からない。
「俺も大概野球バカだけど、お前はさらに上をいくな」
練習帰りが一緒になった土曜日の夕方。
偶々、2人きりで。
川辺の道を駅に向かいながら、やっぱりソフトボールの話をする私に、彼はククッと笑いながら言った。
「そんなことないよ!
徳永くんの方が、野球以外好きなことないっしょ?!」
「じゃ、野球とかソフトボール以外で好きなことって何だよ?」
ニヤリと笑いながら、彼が言う。
私は憮然とした。
失礼な!
私だって、お年頃の女の子なのだ!
えーと、女の子らしいもの‼︎
「ええと、近所の『△△』ってケーキ屋さんのカボチャタルトとか、〇〇っていう少女漫画とか、XXXってアイドルとかっ!」
勢いこんで言う私に、彼はわざとらしく驚いた表情をした。
「へぇ、春日って女子だったんだ」
「なにをぅ⁉︎男子だったら野球部に入ってるわ‼︎」
「それは楽しそうだな」
夕焼けの空を映す川面。
オレンジ色の背景に、今まで見たことのない柔らかな微笑み。
そして 彼の 眸が 私を とらえる
一瞬ーーー刹那。
絡まる視線に、私は酷く恐怖した———