生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜

「王都一の魔術士ってあの、ブルーライ・・・」

「こらこら！それ以上名前を口にしてはいけない。魔術士様は、俺の口の固さを見込んで話を持ち込んでくださったのだからな」

街のど真ん中で大声で話しているあたり、決して口が固いとは言えないだろうに、こいつを選んだルグランは馬鹿なのだろうか？

「そうですね。普段の、ヤナックさんはとても口が固くて誠実な方ですから」

“お酒か入るとこんなにおしゃべりになるとは知りませんでしたけど“

そう続くはずの言葉を、気弱男は懸命に飲み込んでいるようだった。

「そうだ、私はいつだって誠実だ。そしてあんなど田舎の薄汚い別荘を買ってくれた魔道士様は、もっともっと素晴らしい方なのだ」

しかし、いくら本人不在の所でルグランを褒めちぎっていても本人には聞こえていない。

むしろ、契約を破って満足気に大きな声でネタバレをかますヤナックには、尊敬するルグランからの怒りの鉄拳を食らう末路が待っているだろう。
　
ミシェルとハウルにとっては願ってもない一筋の光明。

もう一声、情報を漏らしてはくれないものかと二人は切に願った。

「それって、晩年ご両親が住んでいたというナメタの森の別荘ですか？」

“ナイス、ひ弱男！“

冷静に見えても、この気弱そうな後輩男も相当な酔っぱらいだったらしい。

“内緒の話“と言われているにも関わらす、さらに話題を掘り下げる愚かさ加減は流石に友人同士といえよう。

ルグランを敵に回した二人の未来に、ハウルは心から呆れながらも僅かに同情した。

後で知った話だが、このヤナックという男、生まれたっての貧乏貴族であったため、この日まで腹いっぱいお酒を飲むことなど一度もなかったのだという。

そのため、誰も知らなかったのだ。

誠実で口の堅いヤナックが、酒に呑まれるといつになく饒舌になることを・・・
。

そのたった一度の深酒で、ヤナックが窮地に追い込まれることになるなど彼自身、もちろん信用してしまったルグランですら知る由もなかったのである。

「やっぱり僕達には、ポメラの神の加護が付いている。あの警戒心の強いルグランがあんなおしゃべりな酔っぱらいを選ぶことになったのがその証拠だ」

ナメタの森の方向に、ずんずんと歩みを進めるミシェルの顔に、薄っすらと笑顔が戻りつつあった。

万が一、ミシェルとハウルの存在に気付いたヤナックが、二人を嘘の情報で翻弄させようとして放った言動と態度であったなら、それは称賛に値する案件であるが、どう見てもあれは本物の酔っ払っいだった。

この棚ぼた式にゲットした情報が正しいことは、ナメタの森が近づくに連れて回復していくミシェルの体調が証明してくれている。

”僕と同じようにハルルの体調も回復しているだろうか？“

ミシェルの心は、意図せず離れ離れになってしまったハルルを求めて、大きく波打つのであった。