生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
過去
・・・・眩しすぎる光が肌を刺す。
波瑠にとっては約1年ぶりの外出。
日陰で育った“人工もやし“が突然日を浴びたのだ。
突き刺さる夏の日差しは、真っ白な肌と、ブルーライトに晒され続けたドライアイには厳しすぎた。
しかし、今日だけは引きこもりニートのプライドは捨てて外出しなければならない。
今日は、事実上の育ての親である元子守のおばあさん、八重さんの命日だからだ。
波瑠は、口元には黒いマスク、頭には真っ黒のパーカーのフードを深く被り、下は紺のジーンズという、真夏にはまるで相応しくないスタイルで目的地までの通路を歩いた。
知らない人が見たらまるでコンビニ強盗のようなスタイルである。
八重さんが眠るのは、自宅から徒歩3分の位置にある駒田川神社裏のお墓。
小学校に上がるまで、波瑠の子守をしてくれていた八重さんとは、八重さんが亡くなる年(波瑠24歳)、早く言えば去年まで親に内緒で交流を続けていた。
小学生の頃は、学校帰りに八重さんの家に入り浸り、中学校に入ってからは不登校気味の波瑠を気遣って、逆に八重さんが波瑠の家に差し入れを持って来てくれたりしていた。
八重さんは一人暮らしをしていたため波瑠との交流を邪魔する者は誰もいなかった。
彼女の家族の有無については最後までわからずじまい。
八重さんが話したがらなかったから、波瑠も無理やり聞き出そうとはしなかった。
結果として、八重さんの遺骨は無縁仏の墓に埋葬されることになった。
八重さんの眠るその墓に行くには、駒田川神社を必ず通らなければならない。
「なんでこんなに暑いんだよ・・・」
波瑠は、駒田川神社に続く50段の階段を登りながら心底面倒そうに呟いたのだが、大部分は太陽熱を吸収する黒いパーカーのせいである。
視線を合わせたくないからとフードを被っていればなおさらだ。
マスクがダメ押しなのだが、こちらはご時世柄仕方なかった。
階段を登りきったところで、波瑠は大きく深呼吸を繰り返す。
「ふー。阿形に吽形、久しぶり」
顔を上げた波瑠は、鳥居の門前、左右に置かれている狛犬と目が合い、嬉しそうに挨拶をした。
もちろん石像の2体が挨拶を返すことはない。
「今日は八重さんに会いに来たんだ。鳥居をくぐらせてもらうね?」
犬好きな波瑠は、この獅子だか犬だかわからない石像も可愛くて好きだった。
コミュ傷の波瑠も、動かない人形や二次元キャラに話しかけるのは得意だった。
波瑠は、嬉しそうに2体の狛犬を撫でると、鳥居の前で一礼してからお社を参拝し、その後、走って八重さんのお墓に向かった。