生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜

「ミシェル！ハルルの様子は・・・」

島の転移魔法陣の一つである、森の祠に到着したハウルは、一目散にスチュアート家のハルルの部屋を目指した。

ハウルがドアを開けるその音の激しさに、ミシェルは片眉を上げて怪訝な顔をした。

「ハルルは寝ているんだ。静かにしてくれないかな？」

ハウルに向ける静かな怒りの表情とは裏腹に、ミシェルの手は絶え間なく優しくハルルの髪を撫でている。

「ハルルの髪の色・・・」

ミシェルの仕草に誘われるようにハルルの顔に目をやるとと、彼女のブラウンだった美しい髪が淡い金色に変化しているのがわかった。

「儀式・・・済んだんだな」

「まだ瞳の色は確認できていないけど、おそらく完遂されはずだ」

ハウルは、ミシェルの満たされた表情から二人の間に”阿吽の絆”が結ばれたのだと確信を持った。

背が少し伸びて大人びたように見えるハルル。

儚げだった印象は更に強くなり、今にも消えて無くなりそうで不安を駆り立てる。

ハウルは無意識にハルルに近づくと、彼女の手に触れようとそっと自らの手を伸ばしていた。

「ハルルに触らないでもらえるかな？」

ミシェルの地を這うような冷たい声にハウルはハッとなり、慌てて己の手を引き戻した。

「すまん、ハルルが消えそうに見えてつい・・・」

ミシェルの阿形となったハルルには、今後、ミシェルの許可なしに何人たりとも勝手に触れることはできない。

もちろん、ハウルが理由もなくハルルに触れることなど一度としてなかったのだが、今後は護衛対象としてだけではなく、友人としてすらも近づくことはできなくなるのだ。

「ハルルには僕がついているからハウルがこれ以上気に病むことはないよ」

それは暗に問答無用で『出ていけ』という意味。

ミシェルのハルルに対するシスコンは、誰が見ても常識の範疇を越えたものであったが、今のミシェルは、スーパーシスコンを通り越して“ヤンデレ“の域に片足を突っ込みかけている。

誰の目にも触れさせたくない、というミシェルの本心が垣間見えて、ハウルは苦々しく笑った。

「わかった。だが、せめてハルルが目が覚めた時には、謝罪だけでもさせてほしい」

ミシェルの独占欲にケチを付けるつもりも邪魔するつもりもない。

ただ、ハルルを守りきれなかったというハウルの許容し難い自責の念については理解を示してほしかった。

ハルルへの謝罪。

自己満足とはいえ、それだけは済ませなければハウルの抱える後悔は一生消えずに残ってしまうだろうから。

「考えておくよ」

「わかった。ハルルを頼んだ」

「言われなくとも」

ハウルから目を離したミシェルは、甘く優し気な眼差しでハルルを見つめていた。

ハウルはこれ以上、ミシェルの邪魔をしないようにと、そっとハルルの居室を後にした。

島に新たな阿吽が召された今、ハウルにも果たすべき新たな任務ができた。

ハウルだけではない。

このスチュアート島に住まう島民一人一人には隠された役割を持たされている。

その事実を知る者は、ここの島民以外は誰も知らない・・・はずだった。