生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
阿吽(あうん)

それは、人々や環境から邪気を払ったり、悪霊から守る、神の神使(しんし)と言われる存在である。

波瑠の前世においては、神社の鳥居の前や入り口に置かれ、口の開いた狛犬のようなものを阿形、口を締めたものを吽形と呼ぶことがあった。

ハルルの生きる今世でも阿吽の存在は神聖視され奉られているらしい(ロゼレム談)。

ただしこの世界では、阿吽の神気は狛犬のような石像ではなく、生身の人間の身体に宿るとされる。

誰でもが阿吽の神気を持つ者を召喚できるわけではない。

異世界から魂の片割れを召喚できるのは選ばれた血族の能力者のみ。

その血を引き継ぐのが、ロゼレムの母親であるモリーの実家、ハロルド家だったのである。

誰にも知らせてはいないがモリーの息子であるロゼレムにはその異能があった。

ハロルド家の持つ“阿吽の守りの力”は、口伝えで直系の子孫にのみ伝えられてきたのだが、もちろん子孫であるロゼレムとマリリンにもその話は伝承された。

文書には残さず口伝えとすることで、王家にも他国にもこの情報は漏らさぬようにしてきたのだ。

はからずも国は、この異能を知らないながらハロルド家を王家の守り刀として重用し、強固な守りを得ていたのである。

仕組みはよくわからないが、ハロルド家の者をそばに置くと国の平和が保証される。

大昔からの暗黙の了解であったこの事実は、色ボケした国王たちの在頭により信頼も価値も失っていった。

本能が欲したのだろうか、偶然にも前国王及びメンデル国王はハロルド家の娘たちを王妃に迎え、国の安定を死守する機会を得ていた。

にも関わらず、色欲にまみれた王は、守り刀であるロゼレムも、次期守り刀となる可能性のある子孫を生むでろうマリリンをもあっさりと手放したのである。

知らないとはいえ愚かとしか言いようがない所業である。

ロゼレムは、モリーが亡くなる直前、6歳の時に阿吽の儀式を執り行い、秘密裏に片割れを召喚することになった。

阿吽の片割れを召喚する方法はいくつかある。

その方法は

①臣下や同僚として同性を迎え入れるもの

②精霊や魔獣などを召喚し従属として迎え入れるもの

③異性を番として迎え入れるもの

の3つである。

なお、難易度は③である番召喚が一番高い。

ロゼレムは6歳ではあったが、愛する幼なじみ兼婚約者であるヤエルがいたので、1番簡単な①の方法を選んだ。

死に逝くモリーの遺言でも

「ロゼレムには、罪はないのに一度はあなたを捨てて逃げた私を許して。だけど、私は前国王とメンデルを許さない。ロゼレムは阿形を召喚して周囲を守り、絶対に愛する人と幸せになってちょうだい。それが私から彼らへのせめてもの抵抗になる・・・」

と記された。

そうして召喚されたのが、なんと、敏腕執事もどきレザルスだったのである。


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