生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
「へえ、八重さんも苦労してたんだね」

「そうよ、あれでも命からがら後宮と国王から逃げてきて必死だったんだからね」

いつの間にか39歳姿のレザルス執事によって準備された日本茶を啜りながら、煎餅片手にハルルとヤエルはホッと一息ついて微笑んだ。

「あ、懐かしくて美味しい!って、この世界に緑茶なんてあったんだ」

「ないわよ。でも波瑠ちゃんに本当のことを話す神妙な場面じゃない?ちょっとしたティブレイクでも、と思って地球から買ってきちゃったの」

てへっ、っと笑う八重さんが懐かしいが憎らしい。

「そんな・・・簡単に手に入るのなら、私がこれまでした苦労は何だったのかしら。八重さんがちょちょっとパパっと地球の物を持って来れるのなら、何も私があくせく研究する必要はなかったのに」

前世の記憶を取り戻してからの十数年間、ハルルは危機管理のためにあらゆるものを開発してきた。

そんなものは、八重さんの魔法の前では幼子が作る玩具のようなものに見えていたに違いない。

「それは違うわ。異世界から持ち出したものは他次元では数時間で消える運命なの。だからこの緑茶も煎餅も、しばらくしたら私達の体からも消える。まあ太らないから安心なんだけどね」

唇を噛むハルルの髪を撫でながら、ヤエルは優しく言った。

「だから、波瑠ちゃんがしてきたことは全て意味があるし私達の助けになってるわ。ありがとう」

感謝されたくて始めたことではない。

これまでだって誰にもその意図は告げずに、黙々とこの島の役に立つだろうと思われる商品の開発や環境整備に努めてきた。

自分のしてきたことには自信はなかった。

ただの自己満足と言われるのが怖かったから。

だけど、こうして他ならぬ八重さんに褒めてもらえた。

ハルルはようやく自分の今世での存在に価値を見いだせたような気がした。

「そうだよ。この島のみんながハルルに感謝している」

ハルルが懐いているヤエルから奪い返さんと、ミシェルが左側からハルルの肩を抱いた。

その変わらぬ温もりにも安心する‥って、違う!

「本題からズレてる」

そう、もともとこの話は、ミシェルが阿吽の儀式を執り行う前からハルルを知っていた、という下りから始まっていたはずだ。

「我に返るハルルも可愛いね。お茶と煎餅の下りはまだしも、ヤエル伯母上の過去は必要な話だよ。八重さん、続きを」

安定の溺愛マイペースミシェルを睨んで、ハルルは右側に座るヤエルに目を向けた。

「あら、波瑠ちゃんはやっぱり3次元イケメンには冷たいのね」

「そうよ。2次元こそ神だもの」

「そんな辛辣なハルルも大好きだよ」

話していた内容は結構Heavyだったはずなのに、最後にはのほほんと話す母娘とその番のやりとり。

ロゼレムとマリリン、カノン、レザルスはその様子を感慨深く穏やかに見守るのだった。
< 73 / 88 >

この作品をシェア

pagetop