生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
「それで?どうしてミシェルが過去の私のことを知ってるの?」

「それにはこちらと地球の時間軸の違いが関係しているのよ」

時間軸?

ヤエルに投げられた突然の“物理“の登場にハルルは首を傾げた。

「自死を自演して後宮を出た後、私はしばらく実家に帰っていたといったわよね?・・・ウフフ、波瑠ちゃんも好きな魔女の家よ。その時、生後3ヶ月だったミシェルを我が家に連れて来ていたこともあってね、その頃一緒に波瑠ちゃんの成長を見守る機会があったというわけなのよ」

へえ、そういうわけね・・・

ってわかるか!

「肝心なところ端折りすぎでしょ、八重さん」と、ハルルは突っ込んだ。

「ほら、僕は大人並の知識を持って生まれてきたってヤエル伯母上が言ってたよね?もちろんスチュアート島に住む面々以外は知らない話だけど、どこから話が漏れて命を狙われるかわからない。それに、城で国王派だった乳母に毒をもられて、僕が殺されそうになったこともあったものだから尚更、危機感も覚えてたしね。ロゼレム伯父上の阿吽契約も20年限定だし、島を継続的に安定して守るために、ついでに僕の阿吽の片割れも召喚しようってことになったんだよ。僕は迷わず“番となる阿吽の片割れ”を召喚することを望んだ。で、どうせなら将来ヤエル伯母上の娘となる胎児に“僕の番の魂”を押し込んで召喚しよう、ってなってさ。ヤエル伯母上と一緒にその候補となる魂を観察していたんだ」

ついでに召喚されたこっちの身にもなって欲しい・・・って、まあ、前世に未練があるわけではないからいいのだけど・・・とハルルは思った。

まるで世間話のように楽しげに告げるミシェルに反感を覚えながらも、ハルルは黙って続きを聞くことを選んだ。

「何人か候補はいたんだけど、何よりミシェルの番となる魂でしょ?私達の好みとかの問題ではなくミシェルの第六感が頼りだったのよね。もちろん、私ははじめから波瑠ちゃん推しだったけど」

「僕だって、水晶が選んだ赤子の中でも、ハルルが僕の番だってすぐにわかったよ。あまりにも可愛いすぎて、すぐにでも抱きしめたいのにできなくて辛かったな」

3ヶ月児に抱きしめられる新生児ってシュールね・・・と、ハルルは思ったが、ここで突っ込んではいけない。

ここは次元が違う、そう、異世界なんだから。

「ミシェルがうるさくて3ヶ月くらいは波瑠ちゃんの成長を眺めてたかな?そのうちに波瑠ちゃん2歳半になってしまって焦ったわ。幸い、地球で波瑠ちゃんの子守に雇われたから良かったものの、危うく出会いを逃すところだったのよ」

こちらの1年が地球の10年だから、こちらの3ヶ月は2年半というわけだ。

「伯母上が地球に下りられてからは、定期的に水晶へ波瑠のムービーを転送してもらってたんだ。だからハルルの前世のことも全部知ってるよ。辛かったのに頑張ったね」

ミシェルが優しくハルルの背中を撫でる。

ハルルは、親から見放され友達もおらず引き籠もっていた過去の自分に思いを馳せた。

寂しくて、悲しくて泣き暮らした自分。

そんな中で子守の八重さんだけが心の支えだった・・・。

っていうか、あの引き籠もりニート波瑠の悲惨な姿をミシェルに全部見られてたの?

オタクまっしぐらでジャージが、デフォの波瑠。

どこにも惚れられる要素は皆無なのですが。 

ハルルは落ち込んで俯いたと思ったらすぐに顔を上げて、今度は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてを繰り返していた。

そんな愛しいハルルの顔を覗き込もうとしたミシェルから目を逸らしてハルルは動揺を隠せずにいた。

「安心して。僕はどんなハルルも愛してるよ」

ハルルは、そんな安定の溺愛シスコンミシェルに呆れながらも、全てを知っても尚、愛してくれる存在が当たり前に存在することにホッとして、コクンと頷いていた。

「まあ!夫から様子は聞いていたし、たまに水晶で覗いてはいたけれど、ミシェルの溺愛ぶりは通常の域を逸しているわね。ふふ、いちゃついてるところ悪いけど、少し話を進めさせてもらおうかな」

ヤエルは口ではからかいながらも、ミシェルの溺愛を咎めることはしない。

親公認か!

「ほら波瑠ちゃん、眠くてもちゃんと聞くのよ?」

脳内ツッコミは炸裂だが、ハルルの表情筋は心的疲労でうまく作用しなくなってきていた。

決して眠いわけではなく、身の置所がなくてぼんやりしていただけなのだが・・・。

この美しいヤエル妃が八重さんで、この国の王妃だったなんて・・・。

いや、死んだことになっているから元王妃か・・・?

それよりも、いったい今までどこに隠れていたのだろうか?

そんなハルルの単純な疑問はいつまで経っても尽きそうにない。

混乱するハルルを見ながら、八重さん、もといヤエルママは、懐かしくも穏やかなあの当時と同じ微笑みを讃えてクスリと笑っている。

前世では他人だったけど、今世では間違いなく血が繋がっている正真正銘の家族。

"八重さんが本当の家族だったらいいのに···"

あの頃、何度そう願っただろう。

この世に生を受けてから、18年の歳月が経過したが、八重さんのことは一度も忘れたことはなかった。

それが、こうして何の因果か縁あって家族となることができた。

ハルルは、感慨にふける彼女のどさくさ紛れに優雅に顔中にキスをするミシェルに身を任せながら、ヤエルの昔語りに耳を傾けるのだった。

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