生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
ミシュ スチュワート ロングトーン

彼は・・・。そう、

とある乙女ゲーム会社のキャラ公募で最優秀賞に選ばれ、ゲーム化に至った波留渾身のキラキラ王子キャラ。

銀髪に蒼碧の腹黒王子様。

定番中の定番のスタイルとはいえ、まるで、ミシェルに生き写しのような・・・

というか、そのまんまである。

ハルルは、恥ずかしすぎて再びミシェルを涙目で見つめた。

「そんな可愛い顔をしても誤魔化されないよ。ねえ・・・いくら2次元とはいえ、今も彼がハルルの一推しなんてことは、まさか、ないよね?」

前世への執着の話から、まさかの現在の推しへの信仰心を疑われる、いや、嫌疑をかけられることになるとは。

天使のようなミシェルの背中に、黒い悪魔の翼が見えるのは気のせいではないだろう・・・。

「当時から、僕は心底、彼にヤキモチを妬いていたんだよ。いくら2次元キャラで波留が直接触れたり抱きしめたりできるわけではない存在とはいえ、あの時点で波留の心の一番を占めていたのはミシュには違いなかったのだから」

確かにミシュをあの世に生み出して以来、彼が波留の心の支えになっていたことは確かだ。

ゲームが売れるにつれ、次々に販売されるイケてるグッズにどれ程癒やされていたことか。

彼の抱き枕に顔を埋めたり、等身大ポスターにキスをしたり。

傍から見たら立派なオタク。

“恥ずか死ぬ・・・“

それでなくとも、波留のダラけた姿や推しに萌えすぎて自堕落に生きる様を、知らぬ間に異世界人(主にミシェル)に公開されていたのだ。

おや?もしかしたら、これは間違いなくプライバシーの侵害として怒り狂って物申しても良い案件ではないだろうか。

ふと、ハルルが我に返って珍しくミシェルに反論しようとすると、被せ気味にミシェルが言葉を重ねてくる。

「偶然とはいえ、波留の一推しキャラの容姿と名前が僕に似ていたのは僥倖だったけどね。でもね、僕が君のそばに行けないというのに、知らない男が君の心を占めていたのは絶対に許せないことではある」

しかし、ヤキモチを妬いていたと言う当時、ミシェルは当時0歳から2歳の赤子だったはず。

いわば赤子の戯言だ。

笑ってやり過ごせるのでは、そう思ったハルルの思考を、今度はヤエル妃が否定する。

「波留ちゃん、いえ、ハルル。そんな大袈裟な・・・って思ったでしょうけど、ミシェルの言ってることは本当よ。彼は生まれながらの天才で、大人並みの思考回路を持つことは家族内では共通認識だったのよ。もちろん嫉妬は大人並み、いえ、それ以上だったわ」

ニッコリと笑いながらも、ハルルの肩にやんわりと指を食い込ませるミシェルの様子が、ハルルの恐怖を増幅させる。

なぜハルルが、過去の2次元推し信仰を咎められなければならないのか?理不尽さ増し増しだが、何か言い訳をしなければ収まりがつかないのもいつものことだった。

「い、いや、推しのミシュに思い入れはあったけどそれが全てではなかったよ?ほ、ほら、心の支えはいつでも八重さんだったし・・・」

言い訳をしながらも、こんな時にハルルはいかにしてミシェルの心理的攻撃をハルルから逸らすかについて必死になってしまう。

ミシェルは赤子の時から大人の知識と記憶を持つ天才。

そんな彼を、常識に当てはめて対応しようというのが所詮、無理な話なのだけれど。

「当時、ヤエル妃が波瑠の一番だったってことは理解しているし、それはかろうじて許容範囲内だ。僕はハルルに親兄弟として愛されたい、わけではないのだからね」

ヤエル妃を敵視しない、という、意外なミシェルのおおらかさに、“ミシェルヤンデレ化’を危ぶんでいたハルルは思わず笑みを浮かべた。

「だからといって、僕はね、全てにおいてハルルの一番じゃないと気がすまないんだよ。そうじゃない場合はどうなるか、今のハルルなら想像できるかな?」

そう言って笑うミシェルが、既にヤンデレ末期状態にあることは、誰の目にも明らかだった。
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