その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……うわ。……寝てた……」
「寝てたね」
「……なんか、すごいいいところで落ちた気がする」
「うん。ちょうどこれから、っていうところで、寝息が聞こえてきた」
その後すぐに、こてっと力なく寄りかかってきたことを思い出す。
おーちゃんは少ししょんぼりした様子で、くしゃりと前髪を乱した。
「仕事で疲れてるんだから、しょうがないよ」
ここ最近、会社が新人研修でバタバタしているみたいだった。
去年よりもさらに忙しそうだったし、帰りが遅いことも多い。
きっと、後輩の仕事をフォローしてあげているのだと思う。
だからこそ、今日の朝はゆっくり寝かせてあげたかったのに……。
結局、早くに起きちゃったもんね。
「ドラマは録画してあるんだし、また時間あるときに見ればいいよ」
「……」
「まだ消さないでおくね」
おーちゃんが見逃してしまった最終話だけを残して、撮り溜めていたドラマを削除していく。
眠たそうな横顔は、どこかまだ元気がない。
……たぶん、わたしが、一緒に見るのを楽しみにしていたせいだ。