その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「なんだか危ない考えだね」
「そ、そうだね」
「……ひょっとしてお姉ちゃん、そういう趣味があるの?」
「違っ、ないよっ。それしかないよねっていう、極端な例え話だってば」
全力で否定する様子が可笑しくて、くすくすしていると、
「もー、やだ。愛花ってば、おーちゃんに似てきたんじゃない?」
「え? そうかな……?」
「だって、それっ。そのすっとぼけ顔、そっくり」
指をさされて、わたしは複雑な思いで首をすくめた。
頭の中に、わたしをからかうときに見せる、おーちゃんの意地悪な笑みが浮かぶ。
……き、気をつけなきゃ……。
毎日一緒にいるから、気づかない内に移っちゃってたのかも。
やだやだ。
なんて、おーちゃんに知られたら怒られそうなことを考えながら、両手でくるくると表情筋をほぐした。
「なんか、納得いかないなあ。妹である愛花のほうが、大人って感じで」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよっ。同棲だなんて……わたしからしたら、随分と先を歩かれてる気分だもん」
不満げに「いいなー」と口を窄めるお姉ちゃん。
わたしはその声を聞きながら、なんとなく肩身の狭い心地になった。