その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
おーちゃんは深く息を吐くと、再び、身を寄せてきた。
長い指でわたしの顔まわりの髪を避け、顔を覗き込んでくる。
「……涙目になってる」
「泣いちゃった」
「泣けるんだ」
「うん」
「え、……どっち?」
「え?」
「主人公。どっち選んだの」
三角関係であった主人公が、ふたりのヒロインのうちのどちらを選んだのか。
そう聞かれているのだとわかって、咄嗟に答えようとしたのを、寸前で踏みとどまった。
「言っちゃっていいの?」
「うん」
おーちゃんはあっさりと頷くと、
「ほとんど、一緒に見ることを楽しんでたようなものだし。いいよ」
わたしの前髪を撫でながら、顔を綻ばせた。
「見てすぐの感想、共有したいだろ」
少しだけ残念に思っていたことを見透かされて、わたしは小さく頷いた。
ドラマ自体よりも、おーちゃんと一緒に見ることを楽しんでいたのは、わたしも同じだった。
「……主人公と、学生時代に付き合ってたほう」
「え」
「最後の最後に、もうひとりが、主人公の背中を押す形になって……」