その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
わたしはつん、と顔を背けた。
拗ねたようにバラエティ番組に目を向けていると、そっと頭が引き寄せられる。
ちゅ、とこめかみに、なだめるような短いキスが落とされた。
「……俺は散々、お前のそういうところに、ドキドキさせられてたし」
……え……。
熱い吐息とともに、次は唇に、柔らかく触れられた。
無意識のうちに閉じていたまぶたを開くと、おーちゃんがニッと口角を上げた。
「……ま。最近は、愛花からはこういうこと、滅多にしてくれないけど」
わざとらしく、
「積極的なお前、……めちゃくちゃ、可愛かったな」
懐かしむように言いながら、おもむろに立ち上がった。
キッチンへと向かう後ろ姿を、わたしは呆然と見送る。
「コーヒー、お前も飲む?」
「あ……、うん」
ほとんど反射的に頷くと、やがて、食器のぶつかる音が聞こえてきた。
……んと。
……なんか、今……。
もしかしなくても、……すごくレアな本音を、聞けたんじゃ……。
わたしは、スクッと立ち上がった。
漂ってくるコーヒーの香りに飛び込んで、おーちゃんの背中にぎゅっと腕を回した。