その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
……忘れたわけじゃない。
304号室への特別な想いが、なくなったわけじゃない。
でも……今は、おーちゃんと暮らしているこの部屋が、きちんとしたわたしの居場所だって、思えるから。
「もう、大丈夫」
ふにゃりと笑ってみせると、安心したような微笑みが返ってくる。
「……そ。なら、よかった」
自然と、ふたりの距離が縮まった。
おでこに落とされたキスに、心が穏やかに溶かされていく。
おーちゃんの胸元に顔を埋めると、……もう日が暮れているというのに、お日様の匂いが、優しくわたしを包み込んだ。