その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「こーら! その呼び方、やめろよなぁっ」
返ってきたそんな咎めるような声とは裏腹に、しっかりと、手は振り返してくれる。
「……美月、仲いいの?」
「まさか。まだ、一回も話したことない」
「……」
「うーん……これは、人気出るね」
まんざらでもない様子で、美月が噛みしめるように言った。
呆れた目を向かいの校舎に向けていると、わたしにまでファンサービスをしてくれたので、一応、ぺこりと小さく頭を下げておいた。
「あれで、25歳なんだって。ちょうどいいよね」
「……なにが?」
「恋愛対象として」
「……でも、先生だよ」
「だからいいんじゃんっ。他の生徒の前ではなかなか見せてくれない一面を、自分だけ見られたりさ……大人のギャップ、ってやつ」