その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



***



夕方の明るい陽光から逃れるように、マトリカリアへと逃げ込む。

エントランスホールは程よく涼しくて、ふう、と脱力した。

襟元をパタつかせれば、滲んでいた汗がひやりとする。


いつもの癖で、考える前に、足は自然と郵便受けの方向へと動いていた。

ポストがずらりと並ぶ、狭い空間。

そこに先客がいるのを見つけ、わたしは足を止めた。


黒いTシャツを纏った、細身のシルエット。

緩くパーマのかかった黒髪から覗く耳元に、シルバーのリングピアスが光っていた。

——ちょうどポストから郵便物を取り出し終え、こちらを振り返ったのは、この間はじめましての挨拶をしたばかりの、七瀬さんだった。

とは言っても、言葉を交わしたのはほとんどおーちゃんで、わたしは顔を合わせた程度だ。


「こんにちは」


なんとなく気まずさを感じながら、ぺこりと頭を下げる。

どーも、と小さく返ってきた挨拶は、素っ気ないものだった。

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