その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


きっと、それを覚えていたんだ。


わたしは納得しかけて、


「……梼原愛花って、お前?」


続けて投げかけられた質問に、さらに驚いてしまう。

……おーちゃんもさすがに、わたしのことをフルネームで呼んだりはしない。


否定も肯定も追いつかないうちに、七瀬さんが、はがきを1枚こちらに差し出した。

ふわりとスパイシーな香水の香りが広がる。

つられて視線を落とすと、すぐに謎は解けた。

宛名の部分には、確かに、『梼原愛花様』と書かれていた。


「あ……」


よく見ると、住所のところが304号室のままだ。

……どうやら、間違って前の住所に届いてしまったらしい。


「ごめんなさい。これ、わたしのです」


わたしは、慌ててはがきを受け取った。

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