その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
通話相手に、気だるげにあしらいの言葉を返しながら、わたしの横を通り過ぎてリビングへと歩いて行く。
洗面所の電気を消してから、わたしもその後に続いた。
……大学の頃の友達、かな。
わたしがまだ中学生の頃に、たまにおーちゃんの家に遊びに来ていた何人かとは、会ったことがある。
うっすらと記憶に残る顔を思い出していると、
「……、猫だよ」
おーちゃんがこちらを振り返りながら、きまりが悪そうに言った。
え、……猫?
思わず、キョロキョロと見回す。
けれど、猫は飼っていないので、もちろんいるわけがなくて。
……もしかして……。
……わたし、猫ってことにされた?
そう気がついて、抗議の目を向けようとしたときには、おーちゃんはネクタイを緩めながら、ソファに腰を下ろしているところだった。