その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
言いながら、とんだ矛盾だ、と思う。
嫌だというわがままな気持ちと、過去のことなんて関係ないのだと思いたい気持ちとがぶつかり、ぐちゃぐちゃだ。
この暗澹とした心の内が、どうすれば晴れるのか、……自分でもわからない。
「愛花。……おいで」
低く落ち着いた声が、わたしを招く。
そっと肩を引き寄せられ、おーちゃんの腕の中に、ふわりと納まった。
「お前が知りたいって言うなら、教えるし……そうじゃないなら、もうこの話はしない。……俺は、どっちでもいいよ」
呼吸をする度、優しい石鹸の香りが、わたしの身体を通り抜けていく。
「でも、……お前の引っかかってる部分が、そう単純なことじゃないっていうのは、わかった」
撫でるように頭を滑る大きな手が、頬に添えられた。
「どうすれば取り除けるのか、単に時間の問題なのかは、俺にもわかんないけど……」
微かに身じろいだおーちゃんの瞳が、至近距離でわたしを捉える。