その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



***



「愛花! お待たせ」

「おはよー」


額に汗を滲ませながら駆け寄ってきた美月に、軽く手を上げる。


平日の午前中。

目の前を行き交う人の数は、普段よりも多く見える。

おそらく、ほとんどの学生が長期休暇に入ったからだろう。


「はーあ。夏休み早々のお出かけがこれだなんて」

「早く済ませようって言ったのは美月じゃん」

「そうだけどさあ。やっぱり気分は重たいのよ」


わたしたちは並んで歩き始め、駅のロータリーにあるバス停の最後尾で足を止めた。

列の先には、スーツを着た男性が白い看板を持って立っている。


「見たくない現実を突きつけられてる感じ」

「まあ、気持ちはすっごくわかるけどね」


げんなりとした美月の言葉に、わたしは同意して、苦笑いを浮かべた。

ここからでも確認できる、看板に書かれた《オープンキャンパス》の文字。

それを見てウキウキワクワクするかと言われると、……正直、気分は程遠い。

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