その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
先週、1学期の最終登校日を終え、――わたしたちに、いよいよ高校生活最後の夏休みが訪れた。
待ちわびていたはずなのに、いざやってくると、時の流れのはやさに寂しさを覚えてしまう。
後悔のないように、たくさん思い出を作らなくちゃ。
そんな使命感に追われながらも、ただ楽しむだけじゃいられないのが、高校3年生の夏というもので。
「来月から夏期講習も始まっちゃうしさ……」
「でもほら、今週末にはひとつめの楽しみが待ってるし」
「――大椛神社のお祭り!」
美月の表情が、パッと明るくなる。
どうやら、思考が憂鬱なものからたちまちウキウキワクワクなものに切り替わったみたいだ。
「美月は結局、浴衣着るの?」
「うーん、着ないかなあ。見せたい相手がいるわけじゃないし」
「康晴たちと行くんだよね」
「そうそう、いつもと代わり映えしないメンバーね」
「……わたしも一緒に行きたかったな」
「なーに言ってるの」
美月は、わたしを軽く肘で小突いた。
「愛しのおーちゃんと、初めての浴衣デートのくせに」
「ちょ、やめてよ、その恥ずかしい言い方……」
前に並んでいる人を気にして、わたしは思わず声を潜めた。