その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「浴衣を買いに行ったときの、浮かれまくってる愛花を見ちゃったらねえ」
「そ、そんなに酷かった?」
「そりゃあもう」
「う……。だって……大椛神社のお祭りっていったら、中学まではお姉ちゃんも合わせて三人で行くのが当たり前だったし……」
高校生になってはじめて、お姉ちゃんが入院していたこともあって、美月たち――友達とお祭りに行くってことを経験して。
「去年はお姉ちゃんのリハビリがあったから、わたしもおーちゃんも、お祭りには行かなかったんだもん」
「……そうだったね」
「だから、わたしにとってはちょっと特別なことっていうか……」
わたしの言葉に、美月の表情がふっと和らぐ。
まるでお母さんみたいな、優しげな眼差しとぶつかった。
と、思ったら。
伸びてきた美月の手が、わたしの前髪をわしゃわしゃっ、と乱して、
「ちょっ」
「去年我慢した分、たーーーっぷり楽しみなよね」
ニッ、と笑顔を向けられた。
去年はただ、目を覚ましたばかりのお姉ちゃんのことが心配で。
お姉ちゃんを置いて、自分たちだけお祭りを楽しむ気分にはなれないね、っておーちゃんと相談したんだ。
だから、……我慢、しているつもりはなかったのだけれど……。
わたしを気遣ってくれるような美月の言葉に、思わず、じんわりと嬉しさが滲む。
「じっくり選んだ浴衣、喜んでくれるといいね?」
「……うん」
俯きがちに、わたしは頷いた。
前髪を整えながら、美月に選ぶのを手伝ってもらって買った、桃色牡丹の浴衣を頭に浮かべる。