その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……いじわる……」
「……意地悪だよ、俺」
「よく知ってるだろ」という呟きとともに、顔を寄せられる。
わたしは諦めて、応えるようにおーちゃんの首に腕を回した。
頬に触れた唇の湿った感触が、ゆっくりと移動していって、耳元を掠める。
舌が輪郭をなぞるように滑った後に、優しく歯を立てられた。
思わず、首を竦めながらぎゅっとしがみついた。
おーちゃんの首元に顔を埋めると、朝の香りに混じって、大好きな香りがわたしの鼻をくすぐる。
見上げれば、霧のように流れ込む光が、おーちゃんの髪を金色に照らしていて。
窓際では、閉まったカーテンに、ベランダの柵に止まった2羽の雀の影が、楽しそうに映っていた。
……こういうのを、幸せっていうんだろうな……。
わたしは、ぼんやりと思った。
……なんか、泣きそう……。
どんどん火照らされていく体に、胸がいっぱいになる。
そっと、震える息を吐き出した。